2012 Fiscal Year Research-status Report
南ラオスの農村開発とその社会・文化的整合性に関する人類学的研究
Project/Area Number |
24520918
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
中田 友子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (50508398)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 開発 / 文化変化 / ラオス / プランテーション / 社会関係 |
Research Abstract |
2012年8月~9月にかけてと、12月に現地調査を行った。調査目的は、ともに調査地の住民たちの現在の状況の把握であり、特に2011年までの状況と比較することであった。その結果、2011年にはまだ住民のごく一部が従事していたにすぎなかったゴム園でのタッピング(樹液採集)の仕事に、60人程度の人々が就いており、しかも彼らの収入がかなり増加していたことが明らかになった。労働者によってラテックスの採集量に差があるため、収入にも差があることは確かだが、少なくとも月70~80万キープ(100ドル弱)、多い労働者では200ドルも稼いでいた。しかも欠勤が少ない労働者には米や塩、砂糖、化学調味料、洗剤などが会社から支給され、これも労働者たちのインセンティブになっている様子がうかがえた。 その一方で、労働者の一部はすでに退職しており、その理由は労働に対するコントロールの厳しさが挙げられる。彼らは毎日早朝(午前3時~4時ごろ)に出勤しなければならず、また彼らのタッピング技術は恒常的な管理の対象であり、さらには欠勤が米などの支給の停止などのサンクションの対象となっているなど、さまざまな形で彼らが今まで経験したことのないコントロールが行われている。これに適応できない労働者は早々と退職してしまう。 また調査地において最近顕著に見られるようになったのは、借金である。特にゴム園の労働者が同じ村人である監督者から借金をするケースが多い。利子は月30%と高利であるが、遊ぶ金やちょっとしたものを購入するために軽い気持ちで借金をする若者が多い。かつては村人間の借金をほとんど観察したことはなく、それは現金収入源が限られていたからではないかと考えられる。ゴム園で働くことで毎月現金収入を得る人々が増え、現金に対する意識が明らかに変化してきているのではないか。これは、住民たちの価値観の変化ともつながるものと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年度は、調査とデータ整理にほとんどの時間を充て、論文など具体的な形での成果を出すことができなかった。ただし、継続的な調査を行っており、短期的に成果を見込めるような研究ではないため、これは当初の予想から外れたものとはいえない。また、データ整理に関しても、テープ起こしを依頼した協力者が忙しかったのか、作業をすべて終えることができず、そのためその分のデータ整理が終えられていないため、積み残しがかなりある。ただ、調査についてはおおむね順調に進んでおり、この調子で今後も継続したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、年2回の調査を継続する予定である。時期は若干ずらしながら、できるだけ異なる時期の状況を調査できるようにしたい。年間でも季節や時期によってラテックス採集の時間帯や採集量は異なるようであり、また2~3月は木を休ませるためにタッピングを全面的に停止する。したがって、その時期の住民たちの生活や仕事についても調査を行いたい。 状況は調査地を訪れるたびに変化しており、今後の状況も予測が困難である。タッピングは開始されてから間もなく、またゴム価格も変動が激しい。これまで自らの裁量で働くことしかしてこなかった住民たちの多くが他者のコントロールを受けて働くことを最終的に受け入れ、これに慣れていくのか、また彼らに支給される報酬は今後も相対的に高いレベルを維持できるのかなど、刻々と変わる状況を丹念に追い続け、同時に住民たちの語りに注意深く耳を傾けるとともに彼らの行為を観察する。 自給自足的な傾向の強い焼畑耕作から、プランテーションでの賃金労働に移行することは単に生業の変化という表現では言い表しきれない大きな影響を住民たちにもたらすものと考える。すでに述べた借金という行為はこの生業の変化と直接的に結びついていると考えられるが、これ以外にも家族内の関係、特に現金収入を得る若者たちとこれに従事できない親世代との関係や、村落内での世帯間の経済格差(特に労働者の数の違いによる)に対する影響など、さまざまなものが想定できる。そしてこれらの影響が彼らの価値観や意識にも少なからずインパクトを与えるのではないかと考えられる。このような点も念頭に置き、調査を進めていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2012年度の調査でのインタビューのテープ起こしが全部完了しておらず、その分の研究費を支出していないため、今年度、この分を支出する予定である。また、研究に関連する資料の購入をあわせて行う。 また、2回の現地調査と、4月に研究発表を行う第4回ラオス研究会議(アメリカ、ウィスコンシン大学)への参加費用(旅費・参加費)に使用する。 なお、ラオスで調査をするためにラオス国立大学社会学部をカウンターパートとし、そこを通して調査許可を得ているが、今年度はそのための費用をあらたに支払うことになっており、これに1200ドル使用する予定である。 さらに調査地でデータ整理に使用するモバイル・パソコンを1台購入する予定である。
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