2014 Fiscal Year Research-status Report
南ラオスの農村開発とその社会・文化的整合性に関する人類学的研究
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24520918
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
中田 友子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (50508398)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 開発 / ゴムプランテーション / 文化変化 / ラオス |
Outline of Annual Research Achievements |
26年度は前年度に引き続き、調査地でのフィールドワークによって、住民たちの生業や文化変化に関するデータの取集を中心に行った。フィールドワークは9月に10日間ほど行った。この時期は、ちょうどゴム会社から給与支給の時期にあたっており、労働者たちの給料をなるべく正確に把握することにつとめ、その目的をおおむね果たすことができた。 また、住民たちがゴム園労働に対して抱く考えや意識、態度について昨年からの変化を関心の中心にすえインタビューと観察を行った。その結果、住民たちの間で相当の違いがみられることが判明した。給与や待遇に関して若干の不満を口にしつつも、一定の満足を感じている人々がいる一方で、以前よりも不満を抱き、労働から離れつつある住民もいる。特に、ゴム園でかつてリーダー的な役割を担い、比較的高い給料を得ていた人々の間で不満が大きく、また読み書き能力の高い住民も、会社の不透明なやり方や給料の算定の仕方に少なからず不満を抱いていることがわかった。それほど不満を抱いていない人々は、読み書き能力もそれほど高くない傾向があり、自身の日々のラテックス(ゴム樹液)収穫量もノートに書き留めていないようである。 このような違いの一方で、かつての焼畑耕作とこれに基づいた生活スタイルをとりたてて懐かしがったり、美化する人々はほとんど見られない。むしろ、焼畑耕作は年中仕事があり、休みがなかったが、今は現金も入るし、時には休めると語る住民がいる。定期的に現金が入ることで分割払いでさまざまな耐久消費財を手に入れることができるようになったと喜ぶ人々もいる。つまり、ゴム園労働は住民に対し、かつて彼らを排除していた消費社会への参入を可能にしたといえる。ただし、この参入は、同時に若者たちに覚醒剤へのアクセスを可能にしたという側面があることを見逃すべきではないだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
26年度はフィールドワークを2回行う予定だったが、2月末から3月にかけて予定していた最後のまとめとなるはずだったフィールドワークは、自身の病気入院・手術のためにキャンセルを余儀なくされた。これまではおおむね順調にデータ収集ができていたが、最後にこのような形で遅れがでることになってしまった。 過去2年間については、年度につき2回、フィールドワークを行い、地域住民たちの生業の変化、自律的な生業としての焼畑耕作と、労働者として雇用され従事するゴム園労働に対する意識や考え方、またその変化などについて、そのプロセスなども含めて追ってきた。さらにゴム園労働によって得られる現金収入が住民たちの文化にどのようなインパクトを与えるのかについても一定のデータを得ることができた。これまで、ラオスのゴムプランテーション開発については、地域住民の意向を無視したトップダウン的なやり方を批判する論調が研究者やNGO関係者の間で強かったと認識しているが、実際にこれが地域住民の生業や文化にどのようなインパクトを与えるのか、特に住民の主観に焦点をあてた研究成果はほとんど見られなかった。この点で本研究は明らかに一歩進めることができたと自負している。とはいえ、最後に予定していたフィールドワークをキャンセルせざるをえなかったことや、現状がけっして完結したものではなく、今後も変化がさらに予想されることを考慮に入れると、今後も調査を継続する必要があると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度にキャンセルした調査について、27年度に実施する予定である。最終年度となるため、最後のまとめとなるフィールドワークを行う。これまでに収集したデータをもとに、個々の世帯や個人の状況について詳細に把握しデータ化する。これは、世帯間や個人間にみられる意識や考え、傾向の違いを精査するためのものであり、村落コミュニティの変化についてより詳細に分析・考察するためである。 今年度の調査は11月ごろを予定している。これまで、大学の学期期間中は調査を実施するのを避けて、夏休みや冬休み、春休みに調査を集中的に行ってきたが、今年度は在外研究を行うため、これまでと異なる時期の調査が可能となる。11月は調査地では稲刈りの時期にあたり、焼畑や水田耕作を行っている世帯にとって農繁期となる。一方でゴム園労働者が多数を占めるようになった現状で、今も農業を継続する世帯がどのようなやり方を行うのか、ゴム園労働者は農繁期に稲刈りを手伝うのか、といったことを中心に観察、聞き取りを行い、調査地における生業の変化、これと関連した文化変化について考察を深める。また、最終年度にあたるため、これまでのデータを洗い直し、補足的な聞き取りや観察を行って、データの取りこぼしのないよう務めるつもりである。
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Causes of Carryover |
最大の理由は、2月末から3月にかけて予定していたフィールドワークをキャンセルしたことである。キャンセルの理由は自身の病気入院・手術であり、退院後もリハビリが必要であったため当該年度にフィールドワークを実施することが不可能と判断した。 また、これ以外にも、フィールドワークの際に、国立ラオス大学の教員が調査地に同行してくれることになっているためこの分の謝金を計上しているが、教員が多忙で同行することができなかったことが何度か重なり、その分の謝金が支出されずに残ってしまっているというのも理由の一つである。さらに、2月末から3月にかけてのフィ―ルドワークをキャンセルしたことにより、ラオス人に依頼したインタビューのトランスクリプションに対する謝金を支払っていないままになっていることも未使用額が発生した理由の一つである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度にフィールドワークを実施する予定である。これにより未使用額の大部分は旅費や謝金として支出されることになるだろう。また、未払いのままになっているインタビューのトランスクリプションに対する謝金もその際に支払う。さらに、ラオス政府が出版している統計資料などの資料や書籍の購入によって残りは使用する予定である。
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