2012 Fiscal Year Research-status Report
災害復興過程の地域的特質と住民意識―オーラル・ヒストリーの実践的活用―
Project/Area Number |
24520923
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
中野 紀和 大東文化大学, 経営学部, 教授 (80320084)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高桑 守 大東文化大学, 国際関係学部, 教授 (60127769)
福井 庸子 大東文化大学, 経営学部, 講師 (90409615)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 災害復興 / オーラル・ヒストリー |
Research Abstract |
研究初年度にあたるため、福岡県の玄界島、東京都の三宅島、長崎県島原市での現地調査に重点をおき、第一次資料の収集に終始した。年度の前半は全員で現地のサーベイを実施した。関係機関への調査協力依頼をし、当該地域の全体把握に努めた。年度の後半は各自の担当地域での具体的聞き取りを開始した。聞き取りにあたっては事前説明と許諾の準備を整えた。現時点で収集している資料と把握した内容は以下の通りである。 玄界島(代表者・中野):福岡県西方沖地震の被災地である玄界島は、わずか3年で全島復興を果たした島である。福岡市西区役所や玄界島公民館等にて、地図や写真、当時の資料等を収集し、現地にて地理的状況やインフラ整備の確認、島の行事の参与観察を行った。20代から60代の住民に聞き取りを実施し、生活ぶりや人づきあいの変遷、仮設での暮らし、宅地造成の方法としきたりや信仰との関わり等、生活の全体像を把握することができた。 三宅島(分担者・福井):三宅島は火山噴火によって全島避難した島である。全島避難は終了したが、今なお高濃度ガス地域が存在し未帰島の者も多い。三宅村役場や郷土博物館を中心として広報資料や学校文集の収集、地理的状況や被災状況を伝える建造物を確認した。20代から90代の住民から聞き取りを行い、島の歴史、被災から復興までの生活の全体像を把握することができた。 島原市(分担者:高桑):島原市は普賢岳噴火の火砕流・土石流で被災した地域である。島原市役所、雲仙岳災害記念館を中心に資料確認、地元新聞記事等の収集を行った。土石流被災家屋保存公園等の記念碑も確認した。その上で、住民避難に尽力し、災害被災地の復興機関のモデルとしての同館の運営に携わる副館長をはじめとした、関係者からの聞き取りを実施した。記念館の日常的活動、住民と行政の意識の相違等を具体的に把握することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究目的は「現地での一次資料の収集とデータの蓄積」であり、そのための「調査地での検討課題が生じたときに迅速に対応できる体制を整える」「調査にあたっての説明と許諾の準備」、これらを整えたうえでの「対象地域の全体把握」であった。研究実績の概要でも述べたように、現時点ではおおむね順調に進んでいる。三宅島と玄界島は、定期船での移動となるため、季節や天候によっては計画どおりにいかないことも予想されていたが、これまでのところは大きな変更はない。 このような現地における聞き取り調査の場合、具体的に話を伺う住民や関係者へのアプローチ、関係性の構築が課題となるが、この点は以下のような段階を踏んでいる。第1段階として行政関係者、第2段階としては行政関係者からの紹介という方法をとっている。その後は各人からの紹介で多世代にわたる複数の住民へと展開している。このような段階を経ることは具体的な聞き取りに至るまでの時間はかかるが、相手の理解と同意を得て進むため、許諾を得やすく、今年度以降の調査を順調に進めるためにも欠かせない手順であった。 このように、各自の調査地での体制を整えることに時間を費やしたため、宮城県の女川町での調査が未着手であるが、この点は2年目にカバーする予定である。一方で、宮城県石巻市の仮設住宅に、来日中の日系ブラジル人がアート作品を描くという斬新な取り組みもあったため、異文化の中での震災の受け止められ方等も急きょ現地(ブラジル)で調査した。被災地に関するさまざまな取り組みが今後もありうるため、状況に応じて臨機応変に調査を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、初年度に引き続き各地域での聞き取り調査を進め、厚みのあるデータを蓄積する。前年分の聞き取り内容を整理して、分析を加えながら、聞き取り内容を広げていく。 まず、今年度の最初に、①調査の進行具合と収集・蓄積したデータの内容を確認する。②収集した語りを微視的かつ俯瞰的に捉え直す。微視的視点からは、各自が録音した聞き取り内容の文字起こし、そこから確認できるトピックを整理する。俯瞰的視点からは、当該地域の被災前後の暮らしのなかに語りを位置付け、語りが生み出された意味を考察する。その際、復興過程の様子と現状との関連も注意深く検討する。 三宅島と島原市に関しては、被災地の一部を保存し、外部へ公開も行われている。被災前の姿に戻すだけでなく、観光と復興のあり方を考えるモデルケースでもあることが明らかになった。このような、観光との結びつきや展開も注意深くみていく必要があると思われる。さらに、特色の異なる3地域の比較検討も行う。共通の動きや課題の有無を確認しながら、後半は各自の内容の不足点や新たに生じた疑問点に沿って、聞き取り内容を広げつつ、深めていく予定である。 なお、年度の後半にはそれまで収集、整理した資料を、日本民俗学会等で報告することも視野に入れ、具体的な成果公開の方法の可能性を探る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
推進方策にもあるように、玄界島、三宅島、島原市での「聞き取り調査と参与観察」「収集した語りの文字化と分析」が主となる。具体的な計画は以下の通りである。 ・前年度の調査を受け、各担当地域を中心に2回にわけて具体的に聞き取りを実施する。① 7月~9月 ②1月~3月 /各自の担当地域での調査を実施(1回につき4泊5日)と女川調査(3泊4日)/玄界島(中野担当)では、島の行事の参与観察を行う。行事に関する変化と暮らしの変化の関連性について深く聞き取る。三宅島(福井担当)では、島内の集落ごとの暮らしの変化を継続的に行い、さらに本土で暮らす未帰島者からの聞き取りを開始する。島原(高桑担当)では、被災地域と周辺の住民からの聞き取りに着手する。同時に観光を視野にいれた行政の活動についての聞き取りも実施する。全員で実施する女川の調査では、復興の進行具合と暮らしの現状を把握する。 ・収集したデータは、随時、テープ起こしを進める。次回の調査の際に本人に開示し、公開にむけての承諾を得る。承諾を得られない場合はその理由を分析すると同時に、当人と意見交換をしながら、公開の可能性も探る。 ・年度の後半には、文字化された語りの具体的な分析を進める。 資料の整理・テープ起こしは大学院生に依頼予定(大学院生2名 \7,800×20日×2人)
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