2013 Fiscal Year Research-status Report
災害復興過程の地域的特質と住民意識―オーラル・ヒストリーの実践的活用―
Project/Area Number |
24520923
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
中野 紀和 大東文化大学, 経営学部, 教授 (80320084)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高桑 守 大東文化大学, 国際関係学部, 教授 (60127769)
福井 庸子 大東文化大学, 経営学部, 講師 (90409615)
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Keywords | 災害復興 / 生活知 |
Research Abstract |
研究2年目にあたり、前年度に引き続き、各担当地域(福岡県の玄界島、長崎県島原市、東京都の三宅島)の状況をみながら、現地調査および関連資料を収集することに努めた。前年度の調査で所在が把握できた文字資料等にも積極的に目を通し、オーラル・データとを重ねながら、資料全体の相関関係を考察している。 玄界島の調査では、島の重要な行事の参与観察をしながら、復興後の生活状況を詳細に聞き取った。課題であった被災以前の資料は、文化財レスキューで保存された住民の日記が博物館に寄贈されていることが明らかになったため、内容確認を進めている。 三宅島と島原市に関しては、収集した資料をもとに分析のための整理・検討を中心におこなった。その結果、観光の視点から復興過程を捉えることの有効性が明らかになりつつある。三宅島では島に帰島できず、都内で生活する人たちの所在も把握できつつあるため、島と本土との間で住民がどのような生活再建をしてきたのか、新たな調査項目を考察中である。さらに、代表者と分担者で複数回にわたり情報交換の場を設定し、各地域のデータを照らしあわせ、社会組織や社会関係等から当該地域の生活構造の把握を試みている。 東日本大震災の被災地である宮城県の女川町の聞き取りに関しては、関係者と調査日程や内容の調整が終わり、具体的な調査は4月から実施することになった。 年度の後半は、日本民俗学会での報告や論文等に加え、調査の進捗状況を所属機関のHPに掲載する等、成果の公開に努めてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目の研究目的は、「インタビューの継続」と「その文字起こしと内容確認」であった。オーラル・ヒストリーの蓄積をするなかで、語りの傾向を捉える(トピック毎の分類、整理)ことを目的しており、これらについては継続中であるが、おおむね順調に進展している。ただし、宮城県の女川町の調査に関しては、事前調整に時間を要し、4月から複数回にわけて実施することになっている。調査にあたっての地元の方との調整は終了した。なお、このような現地における聞き取り調査の場合、地域ごとに重点を置くポイントを多少変更する必要が生じているが、研究の目的自体に大きな変更はない。 現地での聞き取りのなかでオーラル・データ以外の予期しない資料が見つかることもあった。玄界島では住民の約20年にわたる詳細な日記の存在が明らかになった。既に博物館に寄贈されており未公開のため、博物館で日記の内容確認を進めている。これにより、被災前の生活を把握しやすくなることが考えられる。玄界島に関しては記録資料がきわめて少なく、このような文字資料が残っていたことで、島の生活の変遷を知るうえでは大いに参考になった。三宅島と島原市はこれまでメディア等での注目度が高く、災害関係の記録資料は多い。それらの資料を精査しながら収集した。前年度の調査データとあわせて、資料全体の内容検討と整理、分析に重点を置いた。 なお、宮城県の石巻や女川の調査のための準備をすすめるなかで、地元の若者たちのアートを介した復興活動が積極的に展開され始めたことが明らかになった。衣食住という生活基盤の整備に加え、被災者自らの表現活動は、海外におけるアートを介した地域再生活動と多くの類似点が見いだされる。このような活動が広く展開されているサンパウロ(ブラジル)での調査も実施した。 これらの成果の一部を学会発表等で外部にむけて公開することもできた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、玄界島、三宅島については「インタビューの継続」と「内容の分析」を継続的に実施し、公開準備を進める。インタビューに関しては、前年度まで蓄積したデータによる対象地域の比較検討、考察をうけて補足調査を行う。さらに、島原市と三宅島は観光の側面からの復興が進んでいるため、同様の復興をみせる中越地震の被災地(小千谷、長岡等)の調査を新しい分担者の追加によって実施する。これにより研究全体に支障を生じることはなく、むしろ発展的に展開できると考えている。 経費面でも、島原市での調査が一段落しているため、その分を中越地方の調査にあてることが可能であるため問題はない。 また、2年目に実施予定であった宮城県の女川町の調査が、事前調整に時間を要し今年度に実施することになった。4月から複数回にわけて現地での聞き取りを行う。事前準備の過程で、地元の住民がアートを介した実践によって地域の再生を試みていることが明らかになった。地域再生とアートが結びついた実践は、被災地に限らず多様な課題を抱える地域への汎用性も考えられるため、注意深く調査する必要があると思われる。 各地域のデータを整理し、学会等で報告することを視野に入れ、成果公開にむけて準備を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
分担者2人のうち1人の調査が、概ね終了したことで、その分の旅費に余裕が出ている。今年度は、その分担者は研究協力者として後方支援にまわることとなった。 また、宮城県の女川町の調査に関しては、現地との事前調整に時間を要したため、調査は本年度に実施することになった。この分の予算が繰り越しとなった。 新たに調査が必要になった地域があり、調査実績のある研究者を、分担者として追加した(承認済)。中越地震の被災地(小千谷、長岡等)を中心とした現地調査を数回にわけて行うことを計画しており、ここに前年度からの繰り越し分を充てる。 さらに、前年度までに事前調整をすませた宮城県の女川町での調査を実施するため、ここにも繰り越し分を充てる予定である。
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Research Products
(5 results)