2012 Fiscal Year Research-status Report
タイにおける社会運動の相互行為に関する人類学的研究─都市と辺境の動態から
Project/Area Number |
24520925
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
高城 玲 神奈川大学, 経営学部, 准教授 (60414041)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
飯國 有佳子 大東文化大学, 国際関係学部, 講師 (90462209)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 社会運動 / 相互行為 / 文化人類学 / 国際研究者交流 / タイ:ミャンマー |
Research Abstract |
タイの社会運動に関して相互行為の過程というミクロな視点から人類学的に記述する本研究の目的のために、本年度はタイの都市部と辺境部で現地調査と資料収集を行った。 研究代表者は、タクシン元首相を軸とする政治的対立運動に関して、特に、チェンマイ都市部の反独裁民主同盟(UDD)の拠点で聞き取り調査を行い、あわせて農村部においても運動を担うコミュニティの相互行為に関する調査を行った。そこでは、都市部の国家的なレベルで注目を集めてきたタイの政治的な運動を、地方農村部での実態という視点からも検討する必要性が確認された。またUDDや対立する民主主義市民連合(PAD)の拠点では、各派が作成する文字資料や映像DVD資料などを収集した。 他方、辺境部の社会運動に関しては、カンチャナブリ県のミャンマー国境地帯の元鉱山で展開されている反公害運動に関する現地調査を行った。この村落は地理的に辺境に位置しているのみならず、住民の多くがカレン族であり、民族的なマイノリティとしても周縁化される中で運動が展開されていることが確認された。 研究分担者は、近年急増しているミャンマーからタイへの移民労働者コミュニティの運動に関して、サムットサーコーン県マハーチャイとチェンマイでNGO等の支援団体や宗教施設を中心に予備的な現地調査を行った。そこでは、同じミャンマーからの移民労働者でありながら、海産物加工工場で単純労働力として働くマハーチャイの移民労働者と、集約的な労働需要が少ないシャン系を中心とするチェンマイの移民労働者では、その歴史的背景とエスニシティ、現状が大きく異なることが確認された。一方で、移民労働者同士が活動を展開する場所として、両地域ともに、NGO以外に僧院やモスク、教会といった宗教施設が重要であることが確認された。 なお、代表者と分担者による当該年度の関連する論文と共著書は各1件である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年度は、本研究の初年度にあたる。当初の計画として、まずは当該地域における社会運動の現状を確認するために、タイを中心とする地域の現地調査を都市部と辺境部の双方で行うことを予定していたが、その計画はほぼ達成されたと言える。 現状を確認するために初年度に調査を行った対象は、大きく3つに分類される。第1は、都市部、農村部双方における政治的な運動、第2は、辺境部ミャンマー国境地帯の元鉱山で展開されている反公害運動、第3は、都市部、農村部双方におけるミャンマーからの移民労働者の運動である。 具体的に、研究代表者の高城は、主に都市部バンコクで政治的運動の反独裁民主同盟(UDD)や民主主義市民連合(PAD)の広報拠点などで、各派が作成する文字資料や映像DVD資料などを収集したほか、チェンマイの都市部でもUDDの拠点となっているコミュニティ・ラジオ局で聞き取り調査を行った。また、主に農村部、辺境部では、チェンマイ県の農村部でUDDの活動が活発なコミュニティの調査を行ったほか、カンチャナブリ県の辺境部ではカレン族の住民を中心に展開されている反公害運動の村落を訪問した。研究分担者の飯國は、サムットサーコーン県マハーチャイにおいて急増しているミャンマー移民の海産物加工工場労働者コミュニティを訪問すると共に、主にバンコクやチェンマイの都市部で、ミャンマーからの移民労働者を支援するNGOや宗教施設で聞き取り調査を行った。 なお、初年度で得られた現地調査のデータに関しては、その多くをビデオによる映像資料やICレコーダーによる音声資料に記録しており、それら調査データの整理も順次進め、次年度以降の調査で特にどの地域の運動に焦点を当てるかに関する検討もあわせて進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず、2012年度調査で得られたデータの整理と分析を進めながら、具体的にどの運動に主な焦点を当てていくのかに関する検討を行う。その上で、2013年度は引き続き1.都市部における現地調査、2.辺境部・周辺地域における調査、3.調査データの書き起こしと収集資料の整理分析を進める。 1.都市部の調査では、前年度に引き続き、バンコクやチェンマイで繰りひろげられる運動の相互行為の事例をビデオ映像におさめながら調査する。文字・文献資料、多様なメディア資料の収集も継続して行う。特に、都市部においては各運動の広報拠点のほか、支援する国際機関やNGOなどの組織が集中しているので、そうした諸機関での資料収集と調査も継続して行う。 2.辺境部・周辺地域における調査に関しては、前年度の調査に引き続きチェンマイ県農村部などにおけるUDDの活動が活発なコミュニティの調査を中心としながら、反公害運動の現地調査も継続する。また、ミャンマーからの移民労働者運動に関しては、状況によって送り出すミャンマー側からの周辺地域調査が必要になる場合も考えられる。 3.調査データの書き起こしと収集資料の整理分析に関しては、前年度に引き続きビデオ映像におさめられたタイ語とビルマ語による相互行為の事例を書き起こし、整理・分析する。あわせて、収集された文字資料やウェブ上のものも含めた多様なメディアの資料を整理し分析を行う。 特に今後予定される現地調査に関しては、対象によって地方の現地語との通訳を介しながら、常に流動する事情にも精通した現地の研究者との交流や協力が一層必要になると思われる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
費目別収支状況において次年度使用額(B-A)が生じた状況に関しては、まず本来予定していた旅費が低く抑えられたことが挙げられる。予定していた現地調査はほぼ当初の計画通り効率的に進めることができたが、特に調査において業務を明確に区分できる他の業務と組み合わせることで旅費を抑制したこと、調査者の日当を計上しなかったこと、調査時における円高の影響などによって経費が低く抑えられたこと等が支出抑制の背景にある。また、資料整理でアルバイトの雇用を初年度から予定していたが、現在の所、研究代表者と分担者本人がそれぞれ資料整理を進めることで、人件費支出も抑制することができた。 上記の状況で生じた助成金は、次年度以降の現地調査と資料整理・分析の計画において主に以下のように使用する予定である。まず第1に、初年度の現地調査で対象が焦点化されて来た運動に関して、次年度以降は集中的な調査が必要になる。その際、初年度の調査から、地方の現地語との通訳や常に流動する事情にも精通した現地の研究者などの調査協力者の必要性が確認されたので、今後の調査ではこれらにかかる人件費・謝金として用いる。地方辺境部調査に赴く際には車のチャーター費用も今後の調査で一層必要になる予定である。また、ミャンマーからの移民労働者運動に関しては、状況によって送り出すミャンマー側からの周辺地域調査も必要となってくる。第2に、現地の調査で得られたデータの整理と書き起こしに関して、初年度は代表者と分担者本人が行ってきたが、次年度以降はアルバイトの人件費も必要になる予定である。第3に、当初備品として予定していた相互行為を記録におさめるビデオカメラに関して、初年度はこれまで手持ちの古いもので代用してきたが、今後の調査においては、多角的な視点から記録におさめるために、新たなビデオカメラが必要になる予定である。
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