2013 Fiscal Year Research-status Report
タイにおける社会運動の相互行為に関する人類学的研究─都市と辺境の動態から
Project/Area Number |
24520925
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
高城 玲 神奈川大学, 経営学部, 准教授 (60414041)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
飯國 有佳子 大東文化大学, 国際関係学部, 講師 (90462209)
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Keywords | 相互行為 / 社会運動 / 文化人類学 / 国際研究者交流 / タイ:ミャンマー |
Research Abstract |
本研究はタイを中心とする地域の社会運動に焦点を当て、制度論やマクロな視点のみならず人類学的なミクロな相互行為の過程という視点から社会運動の実態を究明することを目的とし、都市部と農村辺境部双方で現地調査を行ってきた。 研究代表者は近年タイで活発化しているタクシン元首相を対立軸とする政治的な運動に焦点を当て、資料収集と調査を行った。2013年末からは人民民主改革委員会(PDRC)がタクシン派のインラック首相退陣と選挙前の政治改革を求め、バンコクで大規模な反政府政治運動を展開したことで、タイはさらなる対立と混乱、変動の中に置かれることとなった。こうした情勢の中で、研究代表者は多様なメディアを通じて情報収集を行い、バンコクでの運動の現場でも現地調査を行った。特に運動の政治過程のみならず、メディア上や運動の現場双方でどのような相互行為が展開され、運動というコミュニティがいかに形成されていくのかという点に調査の焦点を当てた。 また、バンコクでの運動のみならず、対立するタクシン元首相派の反独裁民主同盟(UDD)のチェンマイにおけるいくつかの拠点(農村辺境部のコミュニティラジオ局)でも現地調査を重ねてきた。そこでの調査から、都市部や国家レベルで注目を集めている政治的運動を、地方や辺境農村部の実態も加味した重層的な視点、しかも運動の相互行為というミクロな視点からもあわせて究明する必要性が確認された。 また、研究分担者は、タイ周辺との関係における社会運動に関して、特に近年急増しているミャンマーからの移民労働者コミュニティ運動の調査を継続した。ミャンマーからの移民労働者に関する資料収集のほか、移民労働者を送り出す側のミャンマー、ヤンゴンやマンダレー周辺における調査も行った。 なお、当該年度の研究成果として研究代表者は単著を1冊刊行し、研究分担者は論文1本、共著書1冊を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目にあたる本年度は、研究対象を絞りながら集中的な現地調査と資料収集を行うことができた。 特に、2013年度はタイにおいてタクシン元首相を対立軸とする政治的な運動が激しさを増した時期でもあった。こうした情勢を受けて研究代表者は、特に政治的な運動に焦点を当て、日々変動する政治情勢の動向資料を多様なメディアを通じて収集し、運動の現地調査も行うことができた。特にバンコクで反政府デモ集会や運動を繰りひろげている人民民主改革委員会(PDRC)のデモ集会での調査も短期間ながら行うことができたほか、対立する反独裁民主同盟(UDD)側のチェンマイ県内辺境農村部におけるコミュニティラジオ局でも運動の現地調査を継続することができた。 また、研究分担者は、ミャンマーからの移民労働者コミュニティ運動の調査を継続しており、労働者を送り出す側のヤンゴン都市部とマンダレー近郊農村部の調査機会を得た。それにより、ミャンマー側出身地によって、労働者の渡航先や従事する職業に偏りがあることを掴むと共に、民主化以降急増しているミャンマー側での労働運動に関わる情報収集を行った。 これまでの調査において、本研究は3つの特徴を持っていると言える。第1は、バンコクやチェンマイ、ヤンゴンなどの都市部のみならず、チェンマイ県内郡部やマンダレー近郊の辺境農村部でも同時に社会運動に関連する調査を行っていることである。第2は、対立する政治運動の一方のみの調査ではなく、調査の濃淡はあるがPDRCとUDD双方の運動を調査対象としていることである。また第3に、運動のマクロな政治過程のみならず、運動の相互行為というミクロな視点からも調査を行っていることである。これらの調査の特徴は、当初計画していた都市部と辺境部の社会運動を関連づけながら相互行為に着目するという視点を反映しており、計画に沿った調査がおおむね達成されていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度は最終年度にあたるため、今後の成果発表に向けて以下の3点に焦点を当てて研究を推進する。 1.これまでの現地調査と資料収集の継続。特にタイにおいて政治的に対立するUDDとPDRCのそれぞれの運動が今年度はさらに活発化することが予想されるため、政治過程的な情勢に関する多様なメディアの情報収集と、運動が展開される現場での現地調査を集中的に継続して行う。また、ミャンマーからの移民労働者コミュニティ運動に関しても、送り出す側のミャンマー国内における日常的実践との関連も含めて調査と資料収集を継続する。 2.これまでの調査で収集した資料の整理と分析。これまで2年間の調査で収集した文字資料とDVD等の非文字資料や、現地調査で撮影・録音した映像音声資料を整理すると共に、特に映像音声資料の書き起こし作業や整理、分析を進める。 3.社会運動の人類学的研究に関する近年の研究動向調査。社会運動に関してはこれまで多様な分野で研究が積み重ねられてきており、人類学的な研究も層が厚い。本研究で社会運動を相互行為という視座から人類学的に究明するにあたっても先行研究から学ぶべきことは多い。研究代表者は昨年度、タイ農村社会の相互行為と社会秩序を主題とする単著を刊行したが、そこで明らかにされた次の課題は、変動する過程の中にある現代タイ社会を相互行為という視座から究明することであった。この課題の延長線上に本研究の「社会運動の相互行為」というテーマが位置づけられるが、社会運動の相互行為という視座をより広い文脈の中でも掘り下げていく必要がある。そのために本年度は、人類学並びに近接の人文・社会科学的な議論を広く取り入れるべく、近年の研究や現在進行している他の研究から学びながら議論を深めていく。具体的には関連する先行研究の文献調査と、現在進行している国内外の関連研究者と交流を深めながら研究視座を掘り下げていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額(B-A)が生じた理由に関しては、まず予定していた旅費が低く抑えられたことが挙げられる。予定していた現地調査はほぼ当初の計画通り効率的に進めることができたが、特に調査において業務を明確に区分できる他の業務と組み合わせることで旅費を抑制したことなどによって経費が低く抑えられた。また、予定していた現地調査の際の地方語への通訳や案内に対する謝金も、通訳を要する調査を短時間に集中して行うことによって、謝金の経費を低く抑えることができた。その他、資料整理でアルバイトの雇用を初年度から予定していたが、現在の所、研究代表者と分担者本人がそれぞれ資料整理を進めることで、人件費支出も抑制することができている。 今年度の現地調査と資料整理分析、研究動向調査において主に以下のように使用する。第1に、対象とする運動に関して、本年度はより長期にわたる集中的な調査が必要となる。その際、地方の現地語との通訳や、常に流動する事情にも精通した現地の研究者などの調査協力者がこれまで以上に必要になるため、その人件費・謝金として使用する。地方辺境部に赴く際には、車のチャーター費用も必要になる。また、ミャンマーからの移民労働者運動に関しては、状況によって送り出すミャンマー側からの周辺地域調査もさらに必要となる。第2に、調査で得られた資料やデータの整理と書き起こしに関して、これまでは代表者と分担者本人が行ってきたが、最終年度の本年度はアルバイト人件費も必要になる。第3に、広く社会運動の相互行為という視座に関連する研究動向を探るために、国内外の研究や研究者に触れる機会が必要となり、そのための旅費も必要とされる。
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