2012 Fiscal Year Research-status Report
多文化社会のケア・ジェンダー・エスニシティ:パキスタン系イギリス女性の事例から
Project/Area Number |
24520928
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
工藤 正子 京都女子大学, 現代社会学部, 准教授 (80447458)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | イギリス / ジェンダー / ケア / エスニシティ |
Research Abstract |
2012年8月に、予定どおり約3週間にわたり、英国バーミンガムおよびロンドンにおいて以下のような予備調査を行った。 (1)パキスタン系イギリス人女性(主に2世で年齢層は30~40代)に家庭内でのケア役割およびライフサイクルによる変化について聞き取り調査を行った。(2)移民の支援団体の代表者らに会い、移民コミュニティ内におけるケアの状況やその変化について聞き取りをした。(3)バーミンガム大学図書館およびロンドンのLSE図書館で文献調査を行うとともに、関連分野の研究者に会い、意見交換を行った。 上記(1)~(3)より、1世の高齢化を背景に介護問題に直面する家族が多いことが見えてきた。このため、高齢者介護に調査のかなりのウエイトをおく必要があると判断し、その一環として高齢者ケア施設(南アジア系移民1世をおもな利用者とするデイケアセンター)を訪問し、参与観察を行い、利用者や介護職員、運営者に聞き取り調査を行った。ここで有償ケアに従事するパキスタン系移民女性にも聞き取りすることができた。 以上の作業から、在英パキスタン系コミュニティにおけるケア(とくに高齢者介護)について、異なるアクターの視点から、状況を把握することができた。また、英国のケアをめぐる状況や、移住者の公的ケア制度へのアクセスをめぐる概況や基本的課題を明らかにすることができた。現地調査の期間以外には、日本でデータの整理および分析を行うとともに、グローバル化におけるケアとジェンダー、エスニシティが交差する分野の文献調査を行った。これにより、より広い視野から英国パキスタン系移民コミュニティのケアがおかれた概況を把握し、ケアの実践をとおした多元的社会のエスニック集団の境界のダイナミズムや集団間の共同性の構築をめぐる問いの焦点化が可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査をほぼ計画どおり行い、平成25年度に行う本調査の基盤を整えることができた。より具体的には、それによって、下記のような進展がみられた。 (1)パキスタン系イギリス女性のケアをめぐる認識やライフサイクルによる変化について、聞き取り調査を行うことで、彼女たちをとりまく社会経済的な諸条件の変容や、そこでのジェンダーとエスニシティの交差についての基本的な考察を行うことができた。 (2)英国におけるケアをめぐる制度や、それにパキスタン系移民がアクセスする現状や課題、とくに移民コミュニティの「文化」に配慮したケア施設の創設などについて概況を把握をすることができた。これによって、本プロジェクトの目的のひとつである、ケアの実践をとおしたエスニック集団の境界の再構成について予備的な考察を行い、本調査に向けての課題の設定をすることが可能となった。 (3)上記について、本調査でさらにデータを収集するために、聞き取りに応じてくれる調査対象者のネットワークの基礎を構築することができた。とくに、家庭で無償のケア役割を担う女性にとどまらず、有償でケア労働を行う女性や、医療機関で働く女性からの協力を打診し、了解をえることができた。 (4)文献調査や研究者との意見交換も進み、英国パキスタン系移民の事例から、エスニシティとケア、ジェンダーがいかに交差するかを明らかにし、そこから多元的社会の境界の動態や共同性の構築について理論的な考察を行うための基盤ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の予備調査を基盤に、平成25年度夏にバーミンガム市で以下のような本調査を行う。 (1)家庭内のケアについて、パキスタン系2世の女性たちを対象に個別の聞き取り調査を継続する。とくに、①家庭内の高齢者や子のケアのために、女性とその家族が有償と主な無償のケア、親族や地域や移民コミュニティ内での相互扶助、公的サポートなどの異なる資源をいかに組み合わせ、そうしたケアをめぐる実践に経済的条件にくわえ、どのような文化的、社会的な価値規範やジェンダーや親族関係が介在しているのかについて、データを集める。 (2)パキスタン系をふくむ南アジア系移民を対象とする高齢者のデイケア施設などを訪問し、利用者と職員に聞き取りを行う。それにより、移住者が自己のエスニック集団を対象とする介護施設を利用する状況や基本的課題、そうした現実に対する当事者の意味づけを把握する。 (3)有償のケア労働を行う女性への聞き取りを行う。これらの女性が、無償のケアと、家庭外で行う有償のケア労働をいかに組み合わせ、それをいかに認識しているのか、また、その背景にどのような経済条件や文化規範、そして、家族間の協働や葛藤、交渉があるのかを理解する。 (4)上記(1)~(3)により、移民社会のケアをめぐる状況に、エスニシティや宗教、ジェンダーをはじめとする差異がいかに交差するかを明らかにしたうえで、そこからエスニック集団間の維持や境界がいかに再構成されるのかを考察する。これにより、多元的社会における、ケアを媒介とする境界の再構築のダイナミズムをとらえる。 (5)文献などにより、他の地域や移民コミュニティの事例とも比較対照しつつ、上記のデータを整理、分析し、国内外の学会で発表を行い、関連分野の研究者との意見交換を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
バーミンガム市とならんでパキスタン系移民の集住する他の都市(候補地:マンチェスター、ロンドン)において、移住者のケアについての補足的な聞き取り調査を行うために使用する。イギリスにおいては、都市によって移民の社会経済的状況や、移民コミュニティを支えるインフラがかなり異なることが見えてきたため、こうして他の都市と比較対照させることによってバーミンガム市のパキスタン系移民コミュニティのケアをめぐるコンテクストをより深く理解することが期待できる。なお、候補とする両市において、調査に協力してくれる可能性のある移住者へのコンタクトをすでにとっている。
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