2013 Fiscal Year Research-status Report
多文化社会のケア・ジェンダー・エスニシティ:パキスタン系イギリス女性の事例から
Project/Area Number |
24520928
|
Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
工藤 正子 京都女子大学, 現代社会学部, 准教授 (80447458)
|
Keywords | イギリス / パキスタン / ケア / ジェンダー / エスニシティ |
Research Abstract |
1.2013年8月にバーミンガム市の南アジア系移民高齢者向けの複数のデイケア・センター(市営、民間、非営利組織を含む)において参与観察を行うとともに、利用者、運営者、スタッフに聞き取りを行った。併行して、パキスタン系移民2世の女性を主な対象に無償、有償のケアについて聞き取りを行った。このほか、年度をとおして先行研究の調査、調査データの整理・分析、研究発表等をとおした国内外の研究者との意見交換を行った。 2.以上から次のことが明らかとなった。(1)高齢者介護を行うなかで、国家、民間などによるケアをいかに組み合わせるかについては、パキスタン系の移民社会内部でも、階層その他により異なるが、イギリスの福祉制度の重心が施設介護から在宅介護にシフトするなかで、①家族と②コミュニティの役割が重要となっている。(2)家族介護の実践は、変容しつつある移民社会の家族やジェンダーをめぐる規範と実践が不可分に結びついており、ケアを切り口に親密な領域の動態をも照射することができる。(3)エスニック・コミュニティによるケアは、南アジア系1世の高齢化が始まるなかで発展してきた。そうした介護現場では南アジア系としての「我々」が語られる一方で、内部の差異が強調され、境界づけられる傾向がある。(4)国家のケア政策ではエスニック・マイノリティへの公的支援における特定のニーズが認知されるようになってきたが、「文化的に適切な」支援制度の構築には、マイノリティへのステレオタイプ化や構造的格差などのみえにくい諸課題が存在する。 3.上記の成果から(1)エスニシティ、ケア、ジェンダーの間の複雑な相互作用、(2)国家、コミュニティ、家族のケアをめぐる語りやその実践をとおして生起するエスニック境界の再編の過程が明らかになりつつある。こうした成果をもとに、社会の多元化と高齢化の交差がもたらす課題を特定し、提言を行うことを目指す。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地における本調査をほぼ計画どおりに行い、最終年度に行うべき調査の項目を設定することができた。具体的には、以下のような点で進展をみた。 1. 多文化社会イギリスの高齢者介護にエスニシティとジェンダーがいかに交差しているのかについて、国家の政策/エスニック・コミュニティでの支援の組織化/インフォーマルな家族内介護という3つの異なるレベルで、それぞれの経緯と現状の基本的な諸要素を明らかにすることができた。 2. 南アジア系高齢者に特化した「文化的に配慮された(culturally sensitive)」ケア・サービスについての現地調査および先行研究のデータ収集をとおして、(1)国家の福祉政策の変容におけるエスニック・マイノリティへのケア支援の位置づけ、(2)エスニック集団(南アジア系、およびそこに含まれるパキスタン系)内部でのケア・ニーズの多様化や、それをめぐる差異の政治、(3)そこから生起するエスニック境界の維持や再編、(4)ケアの現場でのマイノリティ・スタッフ(とくに女性)の雇用をめぐる諸課題についての批判的検討を行うことができた。さらに、ケア現場での調査をとおして今後の調査に協力してくれる人々のネットワークも拡大することができた。 3. 家族介護については、家族や親族集団内での親密性や互酬的な相互行為、その背景にある権力やジェンダー関係というコンテクストのなかにケアを位置づけ、考察することができた。その結果から、女性のケア役割の変化や交渉について、(1)女性の就労や結婚、家族形態の変容や、(2)移民社会、イギリス国内、グローバルなレベルでの社会経済的諸条件との相互の作用を検討するための今後の調査課題を設定することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2013年度には、エスニック・コミュニティのケアに調査の軸足をおいたため、最終年となる2014年度は、家族内のケアにおける女性の役割に主な焦点をあてる。具体的には以下のような調査を行う。 1. パキスタン系2世の女性が、(1)家族、親族集団内の高齢者その他のケアをいかに行い、そこに国家の政策や、家族やジェンダーをめぐる文化理念やエスニック・アイデンティティ、彼女たちをとりまく社会経済的な諸条件がいかに関わっているか、(2)ケアを行う際に、公的支援やコミュニティのさまざまな資源(介護施設やインフォーマル・ネットワークなど)や親族の無償の支援などをいかに組み合わせているか。 2. 有償でケア労働を行う女性にも可能な限り聞き取りを行う。これらの女性が家庭内での無償と有償のケアをいかに組み合わせ、そこにエスニック・コミュニティや家族内での文化規範や権力関係などがいかに関わっているのかを考察する。 3. 以下の2点についても補足調査を進める。(1)エスニック・マイノリティの高齢者ケアをめぐる国家政策に、多文化社会における差異の政治や構造的格差などの問題がいかに絡んでいるのか。(2)南アジア系コミュニティによる高齢者介護の組織化の現状と課題。 以上の点に着目して、イギリスの南アジア系の他のエスニック集団や、他国の移民コミュニティの事例との比較対照も行いつつ、パキスタン系移民社会の事例研究から、多文化社会のケアに、エスニシティや宗教、ジェンダーをはじめとする差異がいかに交差し、ケアを媒介にジェンダー関係やエスニック境界がいかに再構築されるのかをめぐる理論的考察を進め、その成果を口頭発表や論文執筆のかたちで発表し、関連分野の研究者とも意見交換を行う。
|