2013 Fiscal Year Research-status Report
近世前期日本の支配体制をめぐる町人の意識構造と国際関係
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24530001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
桑原 朝子 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (10292814)
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Keywords | 近松門左衛門 / 貞享改暦 / 社会構造 / 信用 / 抜荷 / 長崎 / 町人 / 演劇 |
Research Abstract |
2年目にあたる今年度は、主に以下の三点において研究の進展が見られた。 第一は、初年度に行った、近世前期の上方町人の意識構造に関する史料の分析結果と、数年来取り組んできた、近松門左衛門の作品を中心とする貞享改暦関連史料の分析結果とを合わせ、貞享改暦前後の社会構造について解明した論文にまとめたことである。この論文の執筆により、当時の都市町人が支配権力からも土地の関係からも距離をとり自立的に経済活動を行おうとする志向を持ちながらもそれを支える水平的な連帯関係をなかなか構築できなかった、という問題の存在を実証的に明らかにしたことは、本研究を進める上でも基盤となる。また、この問題については、広義の信用のあり方という観点からもまとめ直し、法制史学会において報告した。 第二は、抜荷(密貿易)に関する法制・経済・文芸史料の分析と二次文献の検討により、抜荷犯罪の態様及びこれに対する幕府の諸役人・藩主・町人等の意識や対応についての、江戸時代を通じた変化を解明できたことである。例えば、概して時代が下るにつれ抜荷の問題は広域化する傾向があり、それとともに役人・町人の主たる関心が外国人との接触の場から抜荷品の流通の場へと移ること、同じ統制する側でも江戸の老中と長崎にいる奉行や地役人との間にはそれぞれ意識の相違が存在し続けること、18世紀半ば頃を境に町人の抜荷犯に対する見方が変化し、幕府の見方に近づくが、天保期(1830~44)頃に若干の揺り戻しも見られることなどが、明らかになった。 第三は、16・17世紀のフランス及び古代ギリシア・ローマの演劇に関する研究文献の検討を通じて、16・17世紀の演劇と古典の関係、演劇と都市や権力との関係などについて示唆を得たことであり、研究全体に関わる視角や手法の精緻化に繋がった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた法制・経済・文芸史料の分析と二次文献の検討は、ほぼ順調に進んだ。今年度に予定していた台湾及び長崎での資料調査は行うことができなかったが、代わりにパリにおいて、近松門左衛門の浄瑠璃とフランス演劇の比較を含む重要な資料の収集を行うことができ、主に次年度に行う予定であった西洋との関係の分析や、全体に関わる視角と方法論の精錬に役立てることができた。よって、研究遂行の順序は当初の計画とやや変わったものの、総じておおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず近松門左衛門とその前後の時代の町人の手になる文芸や知識人の著作等に表れた対外観を、テクスト間の相違や時代による変化に留意しつつ明らかにすることを試みる。このために一次史料・二次文献の追加収集・分析を行うが、資料の収集と整理については、必要に応じてアルバイトに依頼し、作業の効率化を図る予定である。 次いで、この対外観と、2年目までに明らかにした、当時の国内の体制に対する町人等の意識との関係の解明に努める。抜荷の問題はこの関係の考察にとって重要な手掛りとなるが、町人等の著作に表れた外来語や舶載書籍の利用法の分析も別の面から当該関係を照らし出すと考えられる。特に近松の作品には、文学書を中心とする多くの漢籍に加え、スペイン・ポルトガル・オランダ由来の外来語も多く利用されている。よって、文脈に留意しつつ、その利用の意義を探究するとともに、同時代の町人の作家や海外の事情に通じた知識人の著作と比較しつつそれぞれの特徴を明らかにし、町人を中心とする当時の人々の対外観と体制への見方を、立体的に浮き彫りにすることを試みる。 さらに、こうした文献の分析作業と並行して、研究会などを通じて継続的に学問的交流のある国内外の法学者や歴史学者との意見交換を行い、視角や手法の修正、精緻化を図る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度末に長崎における資料調査を予定していたが、その準備の過程において、既に翻刻されている史料の一部の字句について原本の確認が必要であることなどが新たに分かり、研究の効率的な遂行のためには、現地調査に先立って、関係資料をいっそう精査しておくべきであると考えるに至った。したがって、長崎での現地調査は次年度の4月に延期することとした。 上記の理由により残額は、この長崎における調査の旅費と関連資料収集のための経費として使用する予定である。
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Research Products
(5 results)