2012 Fiscal Year Research-status Report
研究手法からみた合衆国の陪審制度の理念と法-情報へのアクセスと法の規制
Project/Area Number |
24530008
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
岩田 太 上智大学, 法学部, 教授 (60327864)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
勝田 卓也 大阪市立大学, 大学院法学研究科,法学部, 教授 (20298095)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 陪審 / 英米法 / 研究手法 / 情報へのアクセス / 裁判員制度 |
Research Abstract |
本研究は,現代において最も活発に機能している合衆国の陪審制度の理念を探るために,陪審の実態などを直接的に研究するのではなく,その研究手法に注目し,そこから焙り出される陪審の理念と法を明らかにしようとするものである.特に,合衆国における陪審研究の特徴となる陪審経験者へのインタビューや陪審評議室への研究者のアクセスなどの研究について,陪審の母国たるイングランド,また,豪州における陪審研究と陪審法制との比較も行い,合衆国の特徴をより鮮明にすることが目標となる. そのため,本研究は, (1)合衆国における陪審の経験的研究に関する網羅的な文献研究,(2)陪審の経験的な研究に対する政治・政策形成的な場面に関する文献研究など,さらに,(3)陪審に関する経験的研究の専門家などへのヒアリングなど,という3つの手法で研究する. 初(24)年度においては,上記(1)および(2)にある文献調査を中心に行った.代表者および分担者間で研究方針や進め方について密接に連絡を取りながら,岩田が(1)の経験的調査を,勝田が(2)の議会資料,裁判所資料などを分担し,かつ,可能な限り包括的に文献の研究を行ってきた.当初の計画では,初年度においても合衆国などにおける準備的なフィールド調査も予定していたが,(1)および(2)の文献が膨大であったために,それらの分析を優先し,フィールド調査については2-3年度目に集中的に行うこととした. 本研究の特徴は,陪審に関する研究手法に注目することによって,そこで暗黙の前提とされている陪審制度の理念,また広く裁判という公的機関における情報へのアクセスと法の規制などに焦点をあてることによって,英米諸国における陪審像の異同を明らかにすることである.それと共に,日本における将来の裁判員制度の実態調査などへの示唆を行うことを目標とする点が最大の特徴である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように,初(H24)年度においては,下記(1)および(2)にある文献調査が研究計画の中心であり,研究代表者・研究分担者で異なった対象・視点から分担することによって,概ね予定通りに行ってきた.H24年度に行った文献研究の対象は,(1)合衆国を中心とする陪審研究,特に経験的研究に関する網羅的な文献研究,および,(2)陪審についての経験的な研究のあり方が議論された政治・政策形成的な場面に関する文献研究(議会議事録,裁判所資料調査),である.当初初年度にも第2年度以降に行う本格的なヒアリング調査の予備的調査を行う予定であったが,昨年度は実地調査を実施しなかった.上記のように,初年度計画の中心においていた文献研究の対象がかなり多岐にわたっていたために,それらを優先的に行ったことが最大の理由である.しかし,陪審研究が膨大であることについては,研究計画時から想定されており,その意味ではこのようなことは予測の範囲内であり,研究計画において2年度目以降においても文献研究を継続の予定であったことからもわかる.むしろ文献研究の整理分析を先行させるほうが,その後に行うことになっているヒアリングを効率的に行うためにも得策であると判断し,文献研究を優先して行った次第である.従ってそのような文献研究による成果を活かし次年度以降集中的に合衆国などでの専門家に対するヒアリングを効率的に行う予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
第2(H25) 年度は初年度に行った文献調査を継続するとともに,その成果に基づいて,実際に合衆国において経験的研究を行っている専門家,裁判所関係者などへの本格的なヒアリング調査を通じ,文献調査の整理分析の洗練度を上げることを目標とする.また第2年度後半から最終(26)年度については,豪州など他の英米法諸国でのヒアリング調査によって,それまでの分析結果についての同じ英米法国での異同を確認する作業と位置づける. これに関連し,成果発表の一部として2013年9月に開催される日米法学会シンポジウム「アメリカ陪審制度の再検討-陪審制度の現状を問う」(仮題)(代表・丸田隆関西学院大学教授)において代表者の岩田が報告する予定である.国内外の陪審研究者が集う貴重な機会であるために,シンポジウム参加者などとのディスカッションを通じ,批判的側面を含め本研究にも活かしていきたい.日本における陪審研究の第一人者である丸田教授に加え,合衆国からは陪審の心理学的研究の大家であるValerie P. Hans教授(コーネル・ロースクール),実務家の視点から日米の制度について研究するMatthew J. Wilson 教授(ワイオミング・ロースクール)などが参加するので,本研究の中心課題である陪審研究手法に現れる陪審理念のみならず,合衆国のヒアリングなどについても意見交換を行い,研究実施に活かしたい. 26年度は,合衆国に関する分析結果に基づき,別の英米法国との比較を行う.具体的には,陪審経験者への一切の接触が禁止されている法制を持ちながら裁判所の協力の下,陪審経験者への調査が実施された豪州Victoria州などでのヒアリングを検討している.それらの作業を経て,最終(H26)年度には成果の公表作業を中心に行う予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前述のように,初(H24)年度において文献研究を集中的に行うことを優先したため.当初計画していた予備的なヒアリング調査を行わなかったことから,そのための旅費を第2(H25)年度に持ち越すことになった.第1年度において集中的に行った文献研究の成果を活かしつつ,第2年度においては,上記のように2013年9月に行われる陪審関連のシンポジウムでのディスカッションや連携を活かしつつ,集中的に合衆国における実地調査を岩田を中心に行う予定である.そこで前年度の持ち越した旅費を含め効率的に研究費を利用に勉める予定である.前述のHans教授などからの協力を探りながら,綿密なヒアリング計画策定を行った上で,陪審研究の中心拠点であるThe Center for Jury Studiesや,実際の陪審評議について先進的な調査を許可してきたArizona州裁判所の関係者などへのヒアリング調査を最大限効率的に行いたいと考えている.
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