2013 Fiscal Year Research-status Report
台湾総督府50年の再評価-明治期官僚制の側面から-
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24530012
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
谷口 昭 名城大学, 法学部, 教授 (20025159)
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Keywords | 台湾総督府公文類纂 / 臨時台湾土地調査局 / 総督府旧蹟文書 / 台湾の近代化 / 明治官僚制 |
Research Abstract |
台湾総督府の関係文書を精査すると、総督府による多岐にわたる施政内容はもとより、業務に従事した官員(職員)たちの実像が浮かび上がってくる。本研究は、彼らが残した記録をもとに、50年に及んだ総督府による台湾統治の功罪を摘出し、一概に「帝国主義下の植民地政府」とはいえない施政の実態について再評価を行う。官員たちの出自や性格と、彼らが外地で業務に臨んだ姿勢や資質に視点を据えることによって、外地を媒介とした日本の近代法の展開と、近世に遡る明治期官僚制の特質が浮き彫りになるからである。一世代前に近代化を経験した日本人による台湾近代化の過程を追体験し、明治日本と台湾という歴史空間を再現することが最終的な目的である。 そのため25年度は、24年後半に着手した3000名にのぼる総督府官員の日本人データベース作成を深化させ、ある程度の類型化された官員像に迫る分析結果を得た。類型化は、出自や職務・職種に加えて現地生活の態様と、内地化が進んだ昭和前半期にいたる経年変化を規準とするが、その成果は26年度に持ち越されることになっている。従って、25年度は、個人データの集積をもとに、明治官僚制の帰結として稼働した総督府官員制の構造原理を探り、日本の近代化に追随させて台湾の近代化を進めた総督府50年の治績を実証的に評価するための資料基盤の蓄積・整備に努めたことになる。 そのうち当年度のエピソードとして、ふと宜蘭を訪れ、治水等地域インフラの整備に統治の実をあげ、今も当地で高く評価されている西郷菊次郎(隆盛息)の治績に触れたことが印象に残る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究基盤として依拠する文献・文書資料のうち、「臨時台湾土地調査局公文類纂」(国史館台湾文献館所蔵)については、292巻にのぼる冊子のうち殆どの画像データを取得し、必要な文書について新たにほぼ5万字の文字データを蓄積した。当然のことながら、「台湾総督府公文類纂」本体への関連調査が必要であるが、現況では不十分だといわなければならない。この点を顧慮しても、現地に直結する資料調査はおおむね順調だといえる。 また、総督府の官員(職員)については、明治期の全職員(約3000名×15年分)の記録を蓄積し、データベース化を進めたが、年度ごとの推移については分析途上にある。従って、多角的な分析は継続中で、論考等の成果発表は26年度以降に持ち越してしまい、達成度は決して高くない。これは主たる史料を国立中央図書館台湾分館所蔵の「総督府旧蹟文書」に求めていたことに起因する。 しかしながら、25年度後半には国立中央研究院が構築した「職員録データベース」にアクセスする許諾を得たので、この部分の調査・分析は加速度的に進む見込みが得られた。 全体としては、4年間の研究期間の2年度目にあって、よく精力的に調査を進め、適格なデータを取得し、今後の分析の基盤を整備したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の目的に沿った分析基盤を、現地で構築されているデータベース等を駆使して充実させる。 その一は、各種「公文類纂」の選択的調査と、翻刻文字データの蓄積と精査である。 その二は、官員(職員)録について、大正・昭和期まで触手を伸ばし、選択的なデータ取得を行う。この部分には本国(日本)における「明治・大正・昭和 官員録・職員録」(国立公文書館所蔵、マイクロフィルム版)を併用し、国立中央研究院の提供するデータベースを駆使して、効率的で豊かな官員像を提示する基盤を新たに充実させる。 その三は、台湾大学法律学院王泰升氏が構築・公開した「法院文書」に本格的にアクセスし、地方法院に残された判決録から本研究に資する史料を探索する。 調査方針としては、可能な限り現地台湾所在の文献にアクセスする必要があるので、引き続き年間30日程度の国外調査を実施する。文書庫や図書館では関連文献に接する機会が多いので、有効な史料の渉猟ができるからである。その傍ら日本における文献史料の調査を実施し、史料的な遺漏がないことを図る。取得した各種データの集約と分析を継続し、まとまった論考発表の準備に着手する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
26年1月開催の講演会経費および3月までの研究補助員謝金の不足が見込まれたため、前倒し支払いを請求したが、その時点で金額が確定できず、基金分の繰り越しとなった。 26年6月予定の講演会経費および研究補助員謝金に使用する。
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