2014 Fiscal Year Annual Research Report
民法典の「分かりにくさ」をめぐる問題群の比較法史的研究
Project/Area Number |
24530015
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
兒玉 寛 龍谷大学, 法務研究科, 教授 (70192060)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 裁判拒絶禁止の原則 / 判決遅延禁止の原則 / 民法典 / 自律的な法学 / 一般法学 / 法律概念 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)最終年度に実施した研究の成果は、「民法典の分りにくさ」の問題群のひとつとしての「定義規定の欠如」の背景について見通しを得たことである。「あらゆる事案について個別の規定を含む」という意味での「完全無欠な民法典」の編纂が不可能である以上、その条文は「柔軟な解釈」に耐えうるものでなければならないにもかかわらず、「定義規定」はその足かせとなりかねない。ドイツでは、「法律であっても拘束力のないもの」という概念が案出され、定義規定はその典型例とされる。そこには、「法律」概念をめぐる19世紀中葉以降の公法学と私法学とのせめぎあいがある。もっとも、このせめぎあいの実相を明らかにしえないまま最終年度の研究を終えざるをえなかった。 2)研究期間全体を通じて実施した研究の成果は、「民法典の分りにくさ」の論理的メカニズムの大枠を確認しえた点にある。第1に、18世紀末のヨーロッパ各国の政治のレベルで「法規の欠如を理由として裁判を拒絶してはならない」という原則が確立し、にもかかわらず、第2に、あらゆる事案について事前に法規を定立する「完全無欠な民法典」の編纂が不可能であるとの認識から、第3に、この限界を補完する装置が求められた。この装置を、フランス民法典は暗黙裡に18世紀までの法学の蓄積に委ね、オーストリア民法典は条文として規定し、ドイツ民法典は編纂過程で『理由書』などの立法資料に書き入れて「自律的な法学」と「実務」に委ねた。このような、民法典の編纂とその運用との分業を担保する装置の一つが、上記1)で指摘した「法律であっても拘束力のないもの」という概念であり、運用の阻害となりかねない「定義規定の排除」であった。
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