2012 Fiscal Year Research-status Report
国際法における個人責任の複合性と限定性―システム・クリミナリティの動態
Project/Area Number |
24530051
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
古谷 修一 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (50209194)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 個人責任 / 国際刑事裁判所 |
Research Abstract |
国家責任体系と刑法の個人責任体系が複合・融合することにより、いずれとも異なる固有の責任体系が現出すると想定する「複合構造モデル」に即して、個人責任の実体法的側面と手続法的側面を検討した。 具体的には、実体法的側面としては(1)国際慣習法上、個人責任が発生する犯罪を構成する主観的要素および客観的要素のなかに、どのような性格の「組織性」(Systemic Character)および「政策性」(Policy Character)が含まれるのか解明するため、ICTY等のアド・ホックな国際刑事裁判所の判例の分析を行った。そのうえで、ICC規程が定める犯罪構成要件との比較を行うことにより、複合構造が深化する傾向を析出した。(2)個人責任を科すためには、犯罪行為への個人の関与を認定する必要があるが、こうした関与理論における集団性・組織性を、ICTY等の裁判所における上官責任の法理や共同犯罪企図(Joint Criminal Enterprise)の法理を通して検討するとともに、ICCにおける最新の動向と言える「組織に対する支配」(Control over Organization)の法理について分析を行った。 さらに、手続法的側面として、(3)国際刑事裁判における訴追戦略が、最も責任のある組織のリーダーを訴追対象としていることと関連して、国内裁判所に対するICTY/ICTRの「優越性」(Primacy)やICCにおける「補完性」(Complementarity)の原則が運用されるに際して、“System Criminality”の要素がどのように考慮されているのか、訴追戦略を示す検察局文書や判例の検討を通して検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に検討することを計画していた事項については、関連する判例・文献の分析をほぼ完了することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
国家責任体系と刑法の個人責任体系が競合・抵触することにより、両者の抵触を回避する制度が現出し、これによって国際法における個人責任は、刑法の個人責任体系よりも限定的な内容となると想定する「限定構造モデル」に即して、国際刑事手続と国内手続における特徴をそれぞれ検討するとともに、国際手続と国内手続が交錯する局面も考察する。 具体的には、(1)公的資格と責任の関係や国内法上の合法措置・上官命令の抗弁など、国際刑事裁判における違法性阻却の要素となりうる点を取り上げ、組織性・政策性の観点から、個人責任の実体法的な内実が限定・縮小される点を明らかにする。 また、(2)外交免除や主権免除(国家元首等の無答責)など、主権国家の併存を基盤とする伝統的な国際法の原則が、国内手続における個人責任の実体法的・手続法的な側面に与える効果を検討する。この問題は、Institut de Droit Internationalが2009年のナポリ会期において決議を採択し、また現在国際法委員会(ILC)が“Immunity of State officials from foreign criminal jurisdiction”のトピックで審議を行っており、両者のスタンスの相違点から、国際法における個人責任の限定性の特徴を抽出する。 さらに、(3)国際刑事裁判所に対して国家が容疑者・被告人を移送するに際して、その公的地位に基づく免除が問題となり、これは(1)と(2)が交錯する局面として、別個の考察を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究内容では、関連書籍・資料の購入支出が予定していたほどの金額とならなかったため、25年度への繰り越しとなった。25年度は、上記の推進方策に沿った研究を進めるうえで必要な文献・資料を整備するとともに、外交免除や主権免除(国家元首等の無答責)に関する新たな判決が次々と出されているアメリカ合衆国に出張し、関連資料を収集する。また、イギリスに出張し、Institut de Droit Internationalにおいて採択された決議のRapporteurであるLady Hazel Fox博士にインタビューを行い、同決議に至る議論の内容について意見交換を行う。
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