2012 Fiscal Year Research-status Report
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24530057
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川濱 昇 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (60204749)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 市場支配力 / 競争の実質的制限 / 企業結合 / 参入障壁 / ドミナンス基準 / ユニラテラル効果 / 問題解消措置 / 市場画定 |
Research Abstract |
企業結合規制における市場支配力分析について、我が国の企業結合ガイドラインで用いられている標準的な枠組みは3つの類型に分かれている。本年度はその内、同質財における単独型市場支配力に焦点を合わせて検討した。 単独型という表現は差別化された財と共通しているが、後者ではベルトラン競争を念頭に置いた非協力ゲーム理論に対応したモデルが原則とされているが、同質財についてはどのようなモデルを念頭に置いたものであるか明示的な議論はない。本年度は歴史的にこれを解明した。 我が国のガイドラインが参考にした米国の1992年ガイドラインも単独型市場支配力としては、差別化されたベルトラン競争のみを扱い、同質財については空白であった。しかし、その時点での経済学の知見などから、同質財についてはいわゆるドミナンスの問題として捉えられていたのではないかという仮説をたて、EC委員会が米国を参照しつつガイドラインを策定するプロセスを吟味した。そこでは、従来の規制がドミナンスのみを問題とするものであり、新たな類型として非協力ゲーム型モデルをユニラテラル(単独型)問題として提示するものであった。ドミナンスとは、圧倒的シェアを有する企業に対して周辺的企業が競争的に対応するというものである。周辺企業の行動様式はその供給・増産能力によって規定され、寡占的相互依存関係は存在しないものとされる。我が国のガイドラインの考慮事項もこれに対応していることを確認した。 その上で、我が国で差別化された市場の分析とされているものの中には、品質差にすぎないものがあり、限定された市場における支配周辺型分析と隣接市場からの圧力として分析するか、品質差を含む同一市場における分析を用いるか流動的であることを実例を挙げて確認した。 また、市場を所与とした分析の前提条件として参入分析についてもこれまでの問題点を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、企業結合の独禁法上の規制基準である「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」か否か、換言すれば市場支配力の形成・維持・強化がもたらされるかどうかを判断する際の伝統的枠組みの再検討を課題としている。伝統的枠組は、同質財における単独型市場支配力、差別化された財における単独型市場支配力、共同型市場支配力の3類型で判断されるが、それぞれの類型でどのような形で競争が害されるのかについて明示的な議論が乏しかった。それを解明するとともに、具体的に必要とされる執行システムを構築しようというものである。 初年度は同質財における単独型市場支配力の分析及び次年度以降のための準備作業を行うものであった。研究実績の概要に書いたように、単独型市場支配力の発生機序についての中核的なモデルをガイドラインの沿革等を辿ることによって明らかにできたし、また差別化の問題についても、垂直的差別化についてはどうようの発生機序での分析が行われていることも明らかにした。さらに、これらを解明する一連の事例分析で企業結合規制のエンフォースメントにおける我が国の制度ないし運用には大きな欠陥があることも明らかにした。ただし、数量競争によるゲーム論的な分析まで進めることはできなかった。これは以下のように計画の一部を先取りしたためである。 標準的市場支配力分析では、市場内部における競争状況から上記三類型が重要だが、市場内部における分析と参入分析は相互補完関係に立つ。当初予定では参入分析は後年度に行う予定であったが、支配周辺型の市場支配力分析において参入分析が決定的に重要であることが明らかとなったため、参入障壁概念の再定位を行った。特に、参入障壁が分析の対象に応じて異なった意義を持つことを明らかにできた。 以上、一部出遅れた部分と先取りした部分があり、全体として概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、市場支配力分析の第一類型である同質財における単独型市場支配力のうち、支配周辺型モデルには該当しない、数量競争型モデルに対応した分析をまず検討する。このモデルに依拠すると、多くの企業結合が市場支配力を増大させる効果をもつことになるはずであり、またこのモデルではHHI指数が市場支配力と相関することも知られている。しかしながら、我が国のガイドラインや米国のガイドラインはこのモデルを明示的には認めていない。他方、企業結合の計量経済学的分析においてこのモデルに依拠したものは多数ある。この経済学と法運用との乖離はどこにあるのかを法と経済学の双方から解明する。その素材として、まずこのモデルに依拠した規制を明示的に認めてきたEU競争法の規制例を検討する。その上で、我が国の規制例でそれに対応した事例があるか否かを調べる。さらに数量競争モデルの利用が正当化されるケースについて検討を加える。 次に、差別化された市場における単独型市場支配力分析について、その理論的基礎を解明する。まず、我が国の母法国である米国における上記分析における理論モデルを吟味する。我が国では差別化された市場の分析はあるものの、米国における理論モデルであるベルトラン競争モデルによる分析は採用されたことがない。これまでの規制例にそれに対応したものがあったかどうか。また、それら規制例の手法が的確であったかどうかを検討する。その後、3年目には差別化された市場支配力にかかる近時の先端的手法及び共同型市場支配力における理論モデルを検討する。それらを踏まえて最終年度には市場支配力の裏面としての問題解消措置の設計問題、その他市場支配力分析を行う上での現行手続の問題を検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
洋書 500000円 和書・雑誌 300000円 プリンターカートリッジ他消耗部品 200000円 調査研究旅費 100000円
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