2013 Fiscal Year Research-status Report
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24530057
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川濱 昇 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (60204749)
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Keywords | 市場支配力 / 競争の実質的制限 / 市場画定 / 法と経済学 / 問題解消措置 / 企業結合 / ユニラテラル効果 / ドミナンス基準 |
Research Abstract |
企業結合の市場支配力分析の実情は従来、個別事例の違法性判断に即して検討されてきた。今年度は、それに加えて市場支配力分析の裏側である問題解消措置の設計内容に注目して企業結合規制の実相を明らかにするというアプローチをとった。これによって、各国当局の着眼点がより明瞭になった。具体的には、まず同質財市場におけるクールノー競争を前提にした単独型市場支配力の問題を検討した。この場合には供給能力だけではなく当事者の誘因も勘案する必要があり、支配周辺企業型よりも広範に反競争効果が発生することになる。しかし、これまで日米欧でこのモデルが明示的に採用されることはほとんどなかった。経済学では理論・実証ともにこれに依拠することが多いのと対照的である。その理由として、このモデルでは種々のパラメーターを入れたMerger Simulationを実施しない限り、過剰介入(積極過誤)の危険性があることなどが考えられた。ついで、差別化された市場であっても垂直的差別化を中心に、商品特性に注目した比較的狭い市場画定を前提に、支配周辺型と類似した手順がとられてきたことを指摘できた。差別化された市場についてはMerger SimulationやUPPIなど、ベルトランモデルを利用することが欧米では多い。市場画定及び価格引上げへの競争者の対応などを定性的に評価する手法は一見したところ精密さを欠くようだが、供給の代替性が大きな場合などには簡便かつ信頼性もあることがわかった。また、Merger Simulationで必要な計量分析を争訟プロセスで利用する際の困難さが法と経済学のわが国の現在の受容状況に照らして決定的に大きいことも明らかにした。あわせて、各種実証による因果効果の評価法の問題点や手続的制約が介入内容に与える影響の検討という最終年度での課題を見据えた作業も開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では今年度は差別化された市場支配力問題を関連市場画定を通じて検討するという手法についての批判的吟味にとどまるものであったが、むしろそれ固有の存在意義があるかもしれないことを明らかにできた。この伝統的手法の検討を通じて、次年度の検討課題であったMergerSimulationについて、その実施上の問題点を現段階でかなり明確にすることができた。具体的には、この手法が一次近似として利用可能な状況を規制当局の判断段階において入手可能な情報を前提に特定すること及びわが国の法学コミュニティにおけるこの手法と関連手法の誤解点を対象化することの二点に次年度の課題を絞り込むことができた。また、市場支配力問題の裏側の問題である問題解消措置を通じて日米欧の市場支配力分析の検討を行ったが、その副産物として単なる違法性判断基準の呈示にとどまらないで、救済手段も含めた研究へと広げることも可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定では差別化された市場におけるMerger SimulationやUPPIの検討が中心課題であったが、本年度の研究から単にゲーム理論のモデルによって反競争効果を捉えるというのでは実際の適用が困難であることから、それが積極過誤の危険性を回避しながら定性的モデルでは評価できない反競争効果の認識可能な状況を特定することが重要であることがわかったため、本年度そのような特定の可能性を探究する予定である。また、伝統的手法は差別化された市場でのベルトラン競争の機能を正しく把握することによってより信頼できるものとなるという観点から、ベルトラン競争モデルでの反競争効果の発生機序を明瞭にすることも予定している。Merger SimulationやUPPIについてはそれに期待する側も懐疑的な側も理論的背景を無視して議論しているため、それを明示することによって議論の深化を図る。なお、Merger Simulation型の反競争効果の解明を同質財について行った事例の有無についても確認する予定である。また、昨年度の研究によって伝統的な手法である実証研究からの経験則の利用が外的妥当性に無自覚であったことが判明したため、各種実証の外的妥当性を踏まえた規範形成根拠事実としての利用可能性についてあらためて検討を進める。最後に、市場支配力分析の裏側の問題としての問題解消措置設計の方法について本年度も検討を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本件研究に関連して執筆した問題解消措置に関するワーキングペーパー(分担執筆)を印刷の上、配布予定だったが公表が遅れているため。 上記、ワーキングペーパ公表後すみやかに印刷及び送付する予定である。
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