2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530068
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋爪 隆 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (70251436)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 刑法 / 経済刑法 |
Research Abstract |
平成24年度の研究においては、銀行預金の払戻行為の刑法的評価について包括的な検討を加えた。検討に際しては、まず準備的考察として、①預金の払戻請求の可否や預金者の地位の確定をめぐる民事判例や学説について詳細な検討を加えるとともに、②誤振込みの事実を秘して預金の払戻を請求する行為や振り込み詐欺におけるいわゆる「出し子」の罪責をめぐる刑事法の従来の議論について包括的な分析を加えた。これらの検討の結果として、あくまでも銀行が金銭を事実的に占有していることは否定しがたい以上、銀行の占有が失われたことを根拠として、窃盗罪、詐欺罪等の成否を検討することになるが、その際には、少なくとも、銀行の何らかの利益が失われる危険性が必要であるとの結論を得るに至った。このような理解は、詐欺罪の解釈論においては、被欺罔者の錯誤の内容を同罪の法益関係的錯誤に限定すべきであるという解釈に対応するものであるが、窃盗罪の成否についても、被害者の利益状況を斟酌して、その成立範囲を限定する契機を含むものである。すなわち、窃盗罪は被害者の意思に反する占有の移転を処罰しているが、被害者の意思といっても、どのような内容の意思でも同罪で保護されるわけではなく、規範的な観点からの限定が不可欠なのである。このような視点は、窃盗罪の解釈に新たな視点を加えるものとして、重要性を有するものであろう。 このような分析においては、個別の取引における銀行の実質的な利害の分析が不可欠であり、次年度以降の研究では、このような実務的観点を視野に入れた上で、研究を継続していく必要があろう。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
銀行取引やインターネット取引をめぐる刑法上の問題については、既に一定の研究業績を公刊しており、研究目的はおおむね順調に進展していると評価できる。また、平成25年度中には、その研究成果の一部について、学会発表を予定しており、さらなる進展が期待される状況にある。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度においても、昨年度の研究を継続し、銀行預金の払戻をめぐる財産犯の成否について研究を進め、一定の成果を得ることにしたい。この成果については、25年度中に学会等で発表することを予定している。 上記の研究と並行して、研究の第2段階として「銀行の受信業務に関する犯罪の成否」に関する検討に着手することにしたい。この段階の検討においては、①一定の事実を秘した預金口座の開設と詐欺罪の成立の限界について、従来の学説・判例を分析しつつ、一定の解釈論的な方向性を得ること、②マネーロンダリング規制や本人確認の現状と課題を把握しつつ、不法収益等隠匿罪・収受罪の成立要件を明らかにすること、③浮貸しの罪、導入預金処罰など受信業務に関連する特別法の罰則の成立要件について、解釈論的な検討を行うことが、主たる検討課題となる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費については、昨年度同様、研究課題に関連する国内外の重要な文献資料を網羅的に収集することに充てるものとする。入手困難な文献については、国立国会図書館、法務省(法務図書館)などの国内関連機関において資料を複写・閲覧するほか、新聞記事等のデータベースや官公庁のホームページの利用も予定しており、これらの資料収集に必要となる経費についても、研究費から拠出することを計画している。 また、国内の刑事法研究者や実務家との意見交換の機会を積極的に設ける予定であり、そのための経費を国内旅費として、使用する予定である。さらに、学外の研究者や金融機関の実務家からの専門的な知識の提供にかかる謝金や、資料整理のための謝金などについても、研究費としての使用を計画している。
|