2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530068
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋爪 隆 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (70251436)
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Keywords | 刑法 / 経済刑法 |
Research Abstract |
平成25年度の研究においては、銀行預金の払戻行為の刑法的評価について包括的な検討を加えた。具体的な検討内容は以下の通りである。 第1に、振り込め詐欺における「出し子」の罪責について、最近の裁判例・学説の動向について理論的な検討を加えた。その結果、金銭を事実上占有している銀行の意思が重要であることから、ATM管理者の意思に反する払戻については、窃盗罪、詐欺罪の成立可能性を根拠づけることができるが、銀行の意思といっても、いかなる意思でも保護されるわけではなく、窃盗罪、詐欺罪の両者に横断的な観点で、財産犯としての保護に相応しい「意思」内容の限定が必要であるとの結論を得た。 第2に、他人の預金口座を保管する者の不法な払戻行為について、横領罪と窃盗罪の限界について検討を加えた。従来の通説においては、払戻権限の存否によって横領罪と窃盗罪の限界が排他的に区別されていたが、このような議論には必ずしも十分な根拠がなく、両者が重畳的に成立する場面を否定しがたいとの結論を得た。 第3に、派生的な論点ではあるが、振り込め詐欺の本犯について詐欺罪の成立を認め、さらに「出し子」の払戻行為について窃盗罪の成立を認める場合、両者の競合をどのように評価すべきかについても、検討を加えた。両行為の被害者が異なるため、併合罪の成立を認めることが原則となるが、法益侵害の実質的同一性をどのように評価するかが問題となり得る。この点については、罪数論の基礎に立ち返った検討が必要である。 これらの研究成果については、既に公表済みであるが、次年度においては、これらの研究をさらに継続するとともに、財産犯において保護される意思内容の限界という問題意識から、窃盗罪における「窃取」の意義についても、理論的な研究を進めることにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
銀行預金の払戻をめぐる刑法上の問題点については、既に学会報告を行った上で、研究業績の一部を学術論文として公表しており、研究の進捗状況は順調に進展していると評価することができる。次年度以降、さらに理論的な研究を深化させ、その内容を公表することによって、研究目的を十分に達成できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度においても、昨年度の研究を継続し、銀行預金の払戻をめぐる刑法上の問題点について、最新の裁判例・学説の動向を正確にフォローし、分析を加えることにする。 さらに、財産犯において保護される「意思」内容については、法益関係的な観点から一定の限界があるという理解から、窃盗罪、詐欺罪の成立の限界について、理論的な検討を加えることにしたい。とりわけ最近の判例の動向が注目される分野であるので、判例理論ついて多角的な観点から検討を加えることにしたい。 具体的な研究の推進方法については、昨年度までと同様、研究課題に関連する国内外の重要な文献資料を網羅的に収集することが中心となる。入手困難な文献については、国立国会図書館、法務省(法務図書館)などの国内関連機関において資料を複写・閲覧するほか、新聞記事等のデータベースや官公庁のホームページの利用も予定している。また、国内の刑事法研究者や実務家との意見交換の機会を積極的に設ける予定であり、そのための経費を国内旅費として使用する予定である。
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