2012 Fiscal Year Research-status Report
刑事過失の認定における実体法と手続法の「連結」の探究
Project/Area Number |
24530071
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
宇藤 崇 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (30252943)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小田 直樹 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (10194557)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 刑事要件事実論 / 多段階過失 |
Research Abstract |
1. 本研究は,過失犯における注意義務違反の認定を例にとりながら,起訴・審判の過程においてより適切に刑事実体法を実現するために必要となる実体法と手続法の「連結」の条件を検討し,その理論的指針を提示することを目的としている.初年度にあたる平成24年度では,関連する先行研究,従来の判例等を分析し,今後の研究に必要な基礎的な枠組みの確認とに注力した.この作業は,本研究の趣旨に照らし,刑事実体法と刑事手続法の両面からアプローチされている.具体的には次の通り. 2. 刑事実体法との関係では,予見可能性と回避義務の関係をめぐる理論状況を「認定」論からの見直し,予見可能性の「注意義務関連性」という問題について,そのような理解の要否や当否の検討が進められた.その際,航行中の航空機同士の異常接近事故につき,業務上過失致死罪との関係で注意義務違反の存否が問題となった最高裁判例(最決平成22年10月26日刑集64巻7号1019頁)等を含む判例が検討素材とされ,裁判官も出席する研究会においてその成果の一部が示された. 3. 刑事手続法との関係では,過失犯の訴因につき,その注意義務の内容および具体的な注意義務違反の記載の明示性,また注意義務違反をめぐっての訴因変更につき,従来の判例・文献を分析し,(民事におけるとは異なるものの)要件事実論的な観点から捉えなおすための基礎的な作業を行った.とりわけ課題が多いと思われる結果回避義務の内容,またはその違反の認定の在り方の検討が,その中心とされた.平成24年度においては,なお具体的な成果の公表,研究会等での報告に至っていないものの,次年度以降での随時公表に向け,準備を進めている.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度中の検討を予定していた中間なテーマについては,基本的な文献やインターネット上のデータベース等を通じ,国内における関連する議論の実態を把握し,その理解を深めることができた.また,必要に応じて,刑事法以外についての知見,あるいは国外の知見についても把握しながら研究を進めるという点,研究代表者・分担者間で定期的かつ継続的に議論を行うという点でも,研究計画等に照らし,おおむね順調に進展しているといってよかろう. もっとも,実態調査との関係で,必要に応じて,実務における運用実態を,とりわけ裁判官.検察官等に対し聞き取り等を行うとしていた点につき,実務家が参加する研究会での報告等において,意見を交換する機会はあったものの,全体としてはなお十分ではない.また,可能であれば随時公表の予定であったが,なおこの点でも十分とはいえない. 前者については,一定の基礎的知見が得られた時点で,適切な方法により,実務家を交えた検討の機会を設けることを予定している.また,後者についても専門誌等での公表を具体的に検討している.
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の計画とした中間的な研究目標との関係で,なお残された課題につき検討作業を進めるとともに,その成果をも踏まえ,次のように研究を進める. 1. 刑事実体法との関係では,「過失の標準」論を「認定」にいかに投影すべきか等,他者との関係・取締規則との関係も考慮に入れて検討し,いわゆる「能力区別説」の意味を捉え直す.その上で,最終的には,前述の「予見可能性と回避義務の関係」も踏まえて,「過失」の構成における実体法からの(規範的・政策的な)制約を総括し,検察官による「切り取り」に応じた構成の可変性を認めつつ,実体法的に受け容れ可能な全体像(いわば柔構造の過失犯論)を提示することを目指す. 2. 刑事手続法との関係では,間接事実による注意義務違反の立証をめぐる諸問題を抽出し,要件事実論的な理解という観点から,抽出した諸問題を検討する.その上で,本研究の完成年度にあたる平成26年において,過失犯に関する刑事要件事実論の具体的モデルを提示することに向けた作業を進める. 研究手法は平成24年度におけると同様であり,関連する諸問題の実態の正確な把握を目的として,研究代表者,研究分担者間の議論を通じて,その認識を共有することに努めるとともに,検討を進め,その成果についても随時公表していく.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1. 設備備品費について. 本務校の研究環境に照らし,本研究に関連する国内外の図書等の入手は比較的容易ではあり,また本研究にかかる助成費によりすでに入手した文献もあるものの,なお必要となる基本的文献があるほか,最新の情報をつねに継続的に入手する必要がある.そのため,本研究のテーマに関連する諸文献,刑事手続法,刑事実体法を中心に適宜入手してゆく.また,資料を整理するに当たりPCやPC周辺機器が必要となることが予想される.これも現時点で、整っているものもあるが,処理すべき資料が大量・多岐に渡ることが予想されるため,より適切な機器を購入するために研究費を使用する必要のあることも想定している. 2. 消耗品について.本研究に当たっては,文具はもちろんのこと, PCをはじめ,プリンタ一等を用いて得られた情報等を整理してゆくため,その運用を確保するためのPC用消耗品も必要となる.そのために,かかる費用の使用を申請している. 3.旅費・謝金・その他について.本研究のためには,実務家のもとに出向いての聞き取り調査,関連する学会や研究会等に出席することが不可欠である.そのため,研究旅費として申請し使用する.また,実務家を中心として,本研究テーマに関して専門的な知見を有する方からの情報提供を必要とする場合があるため,その規模に応じた謝金を申請し,これを使用する.また,専門的知見を有する方の情報を提供してもらう際に,資料作成のための印刷費等も,これと関連して使用する.
|
Research Products
(2 results)