2012 Fiscal Year Research-status Report
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24530093
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
上田 竹志 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (80452803)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 民事訴訟の当事者論 / 任意的当事者変更 / 民事訴訟における責任分配 |
Research Abstract |
平成24年度は、研究計画どおり、主として当事者変更(任意的当事者変更)における責任分配の問題を分析対象としつつ、民事訴訟における責任分配一般の基礎理論的問題についても考察を行った。その結果、以下の知見が明らかになった。 任意的当事者変更において、当事者変更前後の手続の同一性を説明するために、「社会的紛争の同一性」概念を用いる説がある。民事訴訟法学において、「紛争」概念は、訴訟物理論を初めとして様々な局面で用いられる。しかし、その意味は場面によって異なり、法学上の概念として確たる定義が与えられるわけではない。これは、「紛争」概念が、制度外の社会状態を直接記述するための、外部参照概念であることに起因する。「紛争」は、その時々に制度の中へ映された、社会の記述像と評して良い。 この外部参照機能は、任意的当事者変更論でかつて主張された、「責任分配」概念にも共通する。なぜなら、証明責任論で明らかなように、制度上の目的(たとえば、裁判不能状態の回避)のためには、責任の衡平な分配は何ら必要ではなく、責任分配の妥当性は、制度と(潜在的利用者の総体たる)社会との相互フィードバックによってのみ定まると考えられるからである。また、当事者は任意の制度について、その制度趣旨とは全く異なった次元で、その制度を外的視点から解釈することによって、行為責任の分担を理解し、自身の行為指針とする(たとえば、任意的当事者変更の制度趣旨は訴訟経済にあるが、原告から見れば、被告特定責任軽減という意義を持つ)。その意味で、責任分配は、社会という鏡に映された制度自身の写像と評して良い側面がある。 このように、任意的当事者変更という制度の中に、形式の異なる二つの外部参照概念が混在し、それが制度の正当性を主張する論拠となっていることは興味深い現象である。今後は、この二つの外部参照形式の持つそれぞれの機能・意義の分析に向かう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度民事訴訟法学会個別報告が予定されており、そこで任意的当事者変更論について報告する関係上、計画以上に上記制度についての分析が進んだ。ドイツにおける判例・学説を分析することにより、母法国における任意的当事者変更が、わが国に比べて広範かつ一般的な制度趣旨を実現するために、広く用いられていることが確認され、この点は、わが国における任意的当事者変更論にも示唆を与えうるものと解する。 他方で、責任概念の分析については、計画より若干作業の遅れが生じている。民事訴訟における責任とは負担(Last)であり、そこに善悪の価値判断は含まれないのが通常である。しかし、特に当事者間の責任分配を主観的な行為責任の分配と捉える見解にあっては、ここに価値判断的な要素を含ませていると思われるため、責任の応答可能性・非難可能性的な側面との関係を検討する必要があると考えた。そこで、アルトゥール・カウフマン、ハンナ・アーレント等の法哲学、哲学を参照することで、民事訴訟における責任概念の多面性を析出するよう試みた。しかし、この分析は、現在のところ十分な成果を上げていない。 以上、計画以上に進捗した領域、計画よりやや遅れた領域の双方が混在するが、全体としては、概ね計画どおりに進捗していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、当事者変更論において、形式の異なる外部参照概念が混在することが明らかになった。今後は、他の論点における外部参照概念の布置・機能にも注視しつつ、当事者変動における責任分配のあり方について、一定の積極的な提言を試みる。 平成25年度は、これまでの社会学的研究から析出された責任分配概念(ケア・アーキテクチャ)等が、法学とりわけ民事訴訟における当事者変動論において、何らかの機能を持ち得得るかについても、考察を試みる。 上記研究の成果は、平成25年度日本民事訴訟法学会にて、個別報告として発表するほか、近時におけるドイツ任意的当事者変更論の現状や、判例分析等について、論文としてまとめて公表することを予定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度も引き続き、民事訴訟における当事者論等について文献収集を行う。 また、平成24年度の研究において、関西民事訴訟法研究会への参加・報告を通じて、多くの知見を得ることが出来た。平成25年度においても、引き続き上記研究会への参加を通じて、責任分配の見地からの当事者変動論の構成について、分析を深めたい。このため、複数度の大阪への出張を予定する。
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Research Products
(1 results)