2012 Fiscal Year Research-status Report
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24530094
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小池 泰 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (00309486)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 親子法 / 出自 |
Research Abstract |
2012年度は、「出自を知る権利」の法的意義、そして、子にとっての法的親子関係の意義の二点に関するドイツ法の調査を非嫡出子を中心におこなった。非嫡出子について、ドイツ法は、1969年の民法改正によって、非嫡出父子関係の成立、扶養義務に係る非嫡出子の法的地位の向上が実現された。もっとも、非嫡出子がその血縁上の父との法的父子関係を形成するには、相手方を特定することが不可欠である。そして母はこれに必要な情報を通常は有するものの、子に情報を提供するとは限らない。しかし、子の保護の観点からは、非嫡出子について速やかに法的父子関係を成立させるのが望ましい。そこで、改正法は職務保護制度を設け、その職務に父子関係の確認の手続を含めていた。この状況の下、母が子を十分に養育している場合に、職務保護の終了を認めてよいかが問題となった。連邦通常裁判所は、「自己の出自を知る権利」が基本法1・2条の一般的人格権を構成する要素であり、法的父子関係は子の経済的利益だけではなく、人格的利益にも係わる、として、これを認めなかった。もっとも、母が子の父に係る情報を提供する必要はない、ともされていた。ところが、連邦憲法裁判所1988年1月18日決定は、非嫡出子は、母に対して、父に関する情報の提供を求める権利があるとし、これを「血縁上の(leiblich)父を知る権利」によって基礎づけた。さらに、連邦憲法裁判所は、翌年、嫡出子の否認権行使を厳しく制限していた規定を、子の出自を知る権利の観点から基本法に反すると判断した。そして、この判決を受けて1997年の実親子法改正が実現し、子の否認権行使に対する特別の期間制限はなくなった。 ドイツ法では、出自を解明するための多くの手段が当事者に委ねられるようになっている。残る研究期間において、ドイツ法の展開が「子の福祉」の観点からいかに評価されるべきかを検討していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
子の福祉という抽象的な概念を、個別問題に分けて検討した上で、最終的に本概念にどのような法的意義を認めるべきかを明らかにするのが本研究の目的である。初年度においては、ドイツの親子法において近時重要な役割を果たしてきた「出自を知る権利」に焦点をあてて、それが法的親子関係の成立・否定の局面においてどのような意義を有するか、を検討したことになる。この検討により、出自を知る利益が人格的利益であることに加えて、さらに、法的親子関係の成否問題の前提として重大な役割を果たすことが明らかになった。すなわち、血縁ある者との間の法的親子関係の存在が子の福祉に適うといえるだけでなく、血縁のない者との間で存在する法的父子関係を否定することも子の福祉に適うといい得る局面があり、出自を知る権利は、これによって父でありうる者との間に親子関係を成立させるための条件、さらには、現に存する法的父との間の親子関係を否定するため根拠として、機能する。もっとも、法的親子関係の存在が本当に子の福祉に適うといえるかについては、さらに検討する余地が残る。というのも、ドイツ法の展開では、出自を知るために母からの情報提供を得たり、あるいはその前提として現在の法的父からの試料提供を得ることは子に保障されるようになったものの、それが必ず遺伝上の父との間の法的父子関係の形成につながるかは、子の意思に委ねられている面があるからである。したがって、ドイツ法の展開は、さらに、法的父子関係が子にとって有する意義をさらに検討した上で評価していく必要がある。これにより、出自を知る利益と「子の福祉」の概念との関係が明らかになるはずである。以上の点が明らかになった点で、目的の達成度はおおむね順調といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、親権は子の福祉のためだけに存在するのか、という点を検討する。素材としては、共同親権をめぐる議論を取り上げる。親権の内容については、子に対する義務に尽きるという見解が一般的である。しかし、他方で、親権の帰属をめぐっては、親の権利性を前提として議論されている。このことは、親権制限の局面に明らかである。以上からすると、親権には子の福祉に尽きない法的意義があるのではないか、仮にあるとしたらそれと子の福祉とはどのような関係に立つのか、という点を検討する必要がある。 以上の点を、ドイツとオーストリアの共同親権制度を素材として検討する。ドイツでは1997年改正によって離婚後及び嫡出でない子について共同親権制度が導入され、オーストリアもこれにやや遅れて取り入れている。いずれにおいても、立法過程では詳細な検討がなされており、比較法の対象として有益といえる。また、ドイツでは、1997年改正後の実情に対する社会学的調査が実施され、公表もされている。日本でもとくに離婚後共同親権制度の導入の是非が議論されており、先行して導入した国における社会的実情を把握することで、日本の議論も実のあるものとなる。オーストリアに関しても、同様の調査報告があるので、参照することにしたい。 さらに、親権の意義を明らかにする素材として、未成年者への医療行為と承諾の問題も検討する。とりわけオーストリアはこの点に関する規律を民法に設けており、立法過程及びその後の議論を検討する。これにより、自律(主体性承認)と他律(保護)のバランスという観点からみた子の福祉の内容を明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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