2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24530094
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小池 泰 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (00309486)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 民法 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度では、出自を知る権利の意義、法的親子関係の意義、親権の権利性、親権下にある子の主体性、それぞれの検討を踏まえて、「子の福祉」の概念がいかなる現代的意義を持ちうるか、という点を総合的に検討した。本研究は、「子の福祉」の概念は、その抽象性ゆえに、それが用いられる文脈から切り離して検討すべきではない、というアプローチから、前出の問いを設定している。ただ、従来の研究は「子の福祉」概念にそのものを検討するアプローチが主流であり、従来の研究の到達点として、これについても検討を加えた。もっとも、「子の福祉」それ自体をあつかうと、「子の要保護性」の要請への配慮から、関係する諸利益の分析が十分でなくなる傾向がある。さらに、子の利益自体、文脈に応じて様々な意味をもつ上に、必ずしも一つの方向性に定まるものではない。すなわち、子の出自を知る権利は、子をひとりの人格的存在とみれば当然に子の利益であるが、他方、子がその法的父母と形成する家族を解体する要因ともなりうる。近時のドイツ法の実親子関係の法改正は、この傾向を端的に示すものであった。また、親権法では、児童虐待への法的対応の中で、親権の義務性が強調される一方、共同親権制をめぐる議論では親権の権利性が重視される。もちろん、前者は親と子の関係、後者は親と国家(が定める法制度)との関係での傾向である。しかし、いずれも親権の帰属主体の決定という問題としては、一定の共通性をもっており、両者を総合的に位置付ける枠組みを親権法が用意する必要がある。「子の福祉」という概念は、文脈によって多様な方向性を持つ可能性がある。よって、この概念を決定打とする議論には問題を過度に単純化する危険があり、むしろ「子の福祉」を分析的に把握する方法が必要である。最終年度の研究で明らかになった点は、以上である。
|