2013 Fiscal Year Research-status Report
会社法の視点から見た国際会計基準の導入の意義と課題
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24530101
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
荒谷 裕子 法政大学, 法学部, 教授 (80125492)
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Keywords | IFRS |
Research Abstract |
平成25年度は、会計学と会社法の交錯するIFRSの課題について、全国企業、特に、中小企業においてIFRSを導入する意義、および実務の関心等について調査を行った。なお、6月の企業会計審議会において、IFRSをそのままわが国に強制適用することは当面見送られるとともに、日本版IFRSの策定が決まったことから、今後は、わが国独自の会計基準と、米国版会計基準、国際会計基準(IFRS),日本版IFRSと4つが併存することになり、大きな波紋を実務界に与えている。すなわち、各企業は、今後どのように対応すべきか、業界、あるいは会計学者、会計士の間でも対応が分かれるところである。そこで、この点について、今後、企業では、どのような対応を取る予定なのか、その及ぼす影響等についても併せて意見聴取等を行うとともに、研究者間で意見交換を行った。 また、平成23年度にIFRSの導入に向けてコンバージェンスを行う予定であるとしていた中国では、実際にどうなってるのか現地調査を行った。すなわち、IFRSのコンバージェンスの成否、その運用状況と今後の課題等について、1週間にわたり研究者、裁判官、会計士、企業関係者等からヒヤリングを行った。その結果、実際には、フルコンバージェンスは実現しておらず、わが国同様、いわゆる中国版国際会計基準を採用しつつあること、そこに内在する課題・問題点等について意見を聴取することができた。直接意見交換・ヒヤリングを実施したことは、今後のIFRSに関する問題を考える上で、非常に大きな意義があったといえる。 なお、EU、特に、フランスにおけるIFRSと自国基準の使い分け、すなわち連結財務諸表では、IFRSを採用しつつ、単体財務諸表では、自国基準を採用するというスタンスは、今後4つの会計基準が併存することになるわが国にとって参考になることから、平成24年度に引き続き、平成25年度も文献、判例研究会等を通じて研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究課題について、IFRSをわが国に導入することの可否については、国内の関係者からのヒヤリング調査、意見交換等によって順調に研究を進めることができた。しかし、仮にわが国にIFRSを強制適用した場合に会社法上問題となる点等については、平成25年6月に開催された企業会計審議会において、事実上、IFRSの強制適用が見送られ、企業に任意適用を促すとともに、適用を廃止する予定であった米国基準も各企業の選択・判断に委ね、そのまま使用可能とし、また、新たにわが国の会計慣行に適した形に修正したいわゆる日本版IFRSのようなものを策定するという方向に国の政策が大きく舵を切ったことから、従来の研究の進め方・方針の見直し・変更を余儀なくされた。また、国策としてアジアでIFRSをフルコンバージェンスした韓国に出張して、規制当局、研究者、その影響を受けている企業等にインタビュー調査を行う予定であったが、日韓の急激な政治状況の悪化に伴い、関係者との面会が難しく実現に至らなかった。 こうした事情から、研究の進捗が予定よりやや遅れている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き、会計学と会社法の交錯するIFRSの課題について検証を進める予定である。特に、平成25年6月に開催された企業会計審議会において、急きょ決定された4つの会計基準制度採用の方針、すなわち、IFRSの強制適用は見送り、国際会計基準(IFRS)、米国基準、日本基準、いわゆる日本版IFRS(わが国の会計慣行に適した形に修正したいわゆる日本版IFRS)の4種類の会計基準を併存させ、企業の判断に委ねるとしたことは、今後の実務に及ぼす影響は大きいと思われることから、今年度は、この点に関する実務界の動向、日本版IFRSの概要、任意適用の増加と会社法の改正の余地、取締役の責任とIFRS導入との関係について、関係者からのヒヤリング調査を交えながら、研究を進める予定である。 なお、アジアで唯一、平成24年度から会社法においてIFRSを連単同時導入を果たした韓国では、IFRSの導入の前後でどのように異なるのか、どのような課題が浮上してきているのか等について、会社法に及ぼす影響、特に取締役の責任、報酬等との関係も交えながら実務関係者、規制当局等との間で意見交換を実施したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
予定していた海外出張(韓国)および中国・九州地区の経済界の研究課題に対するヒヤリング調査が、訪問先の都合で、年度内に実施できなかった。また、購入および出版予定の洋書等が予定通り出版・購入できなかったため。 予定していた海外出張および中国・九州地区の経済界の研究課題に対する実務家、研究者、会計士、弁護士などからヒヤリング調査、特に、関西以西の経済圏、地方経済におけるIFRSに対する関心と課題について、4つの会計基準が併存する方向になったことを踏まえて、意見交換を行う予定である。なお、アジアにおいてIFRSをフルコンバージェンスした韓国の状況、課題については、状況が許せば、現地にて、ヒヤリング調査等を実施したいと考えている。また、EU経済が落ち込む中、フランス、EUにおけるIFRSの果たす役割と各国のスタンス、特に単体には自国基準を堅持することの意義、役員の責任、会社法との交錯上の課題等について研究を続行する予定である。
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