2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530105
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
玉井 利幸 南山大学, 法学部, 教授 (90377052)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | キャッシュ・アウト / 株式等売渡請求 / MBO / 取締役の義務 |
Research Abstract |
本研究の目的は、M&A取引における株主の救済の拡充を図るために、M&A取引における取締役及び支配株主の(少数)株主に対する義務の確立と、差止めを中心とした仮処分による救済方法の拡充とを試みることにある。2012年度は、日本の会社法改正の動向を踏まえて、支配株主における少数株主の締出し(キャッシュ・アウト)において対象会社の取締役が負うべき義務についての研究を行った。 2012年9月に公表された「会社法制の見直しに関する要綱」によれば、改正により少数株主の締出しのための新しい制度として株式等売渡請求が創設される予定であり、対象会社の取締役には締出される少数株主の利益を守る義務があるとされる。このような少数株主の利益を守る義務は、伝統的な取締役の義務の概念とは異質の新たな義務であるようにも思える。しかし、会社法の中には、会社法210条や247条のように、一定の場合には株主間の富の移転を防止し既存株主の利益を守ることを取締役に要求する規定が既に存在しており、取締役の少数株主の利益を守る義務は、従来から会社法のなかに存在していたこのような考えを支配株主による少数株主の締出しという株主間の富の移転の虞が生じる典型的な場面において明示したに過ぎないと考えるべきであり、さらに、当該義務は株式等売渡請求の場面に限定される特別の義務ではなく、締出しの手法如何に関わらず、少数株主の締出取引一般において課されるべき義務であると考えるべきである。具体的な義務の内容としては、締出取引の対象会社の取締役は支配株主と少数株主の双方代理的な立場に立つので、双方代理的な立場を脱するか、そうしないのであれば、双方を満足させるため、少数株主を締出すことによって生じうる会社の価値の増加分を支配株主と少数株主で1:1に分配するような価格を獲得するようにする義務があると考えるべきである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年9月に「会社法制の見直しに関する要綱」が公表された。この要綱には、全部取得条項付種類株式、株式併合、株式買取請求権についての改正に加え、株式等売渡請求の新設や組織再編に対する差止制度の拡大など、M&A法制に関する重要な内容が多く含まれていた。そのなかでも、株式等売渡請求制度においては、株式等売渡請求の対象会社の取締役に締出される少数株主の利益を守る義務があるとする提案がなされており、これは従来の取締役の義務に関する一般的な理解とは相当異なる異質の義務を課す提案内容であるようにも思われる。このような取締役の義務に関する改正提案の内容は本研究の目的との関係で非常に重要な意義を持つものであり、これについての検討を研究に反映させることが必要不可欠であると判断した。そのため、当初予定していたアメリカ法の研究のうち、歴史的な研究の部分など、即時性がそれほど要求されない部分については後回しにしたところもある。そのかわり、当初の計画では2年目に実施しようとしていた日本法についての研究のうち、少数株主の締出取引における対象会社の取締役の義務・責任の部分については、株主等売渡請求における対象会社の取締役の義務を検討する際に、前倒しで行った部分が相当程度ある。そのため、当初の予定とは研究の順番が異なっているところがあるが、順番が入れ替わっただけであり、全体としては、研究計画は概ね順調に進んでいるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度は、2012年に公表された「会社法制の見直しに関する要綱」の改正提案の内容を研究に反映させるため、アメリカ法の研究と日本法の研究の一部について、当初の計画の順序を入れ替えたところがある。2013年度は順番を入れ替えたために後回しになったアメリカ法についての研究を進めるようにする。 研究の最終的な目的は、日本のM&A法制において、実務的な批判に耐えうる株主救済法理を構築することにある。会社法改正が実現すれば、M&A法制に重要な変更が加えられることになるので、それを研究内容に反映させる必要がある。改正の内容・方向性については、「会社法制の見直しに関する要綱」により概ね明らかになっているが、条文の文言が明らかにならなければ実務的な要請を満たす解釈論を十分に展開することができない。2013年度中には要綱に基づき、国会に条文が提出され、会社法の改正の成立を受けて法務省令が規定されるものと思われるので、それらを踏まえて研究を進める必要がある。しかし、現時点ではなお改正の時期等は流動的であり、改正作業の動向を見ながら、研究の重点や研究計画の順番を変化させるなど、柔軟に対応する必要がある。研究期間中に会社法改正後の条文の文言が明らかにならない場合は、要綱の内容を前提に研究を進めざるを得ないが、その場合は実務的な観点よりも、比較法的な観点と理論的な観点を強調する研究内容とする必要があると思われる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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