2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530105
|
Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
玉井 利幸 南山大学, 法学部, 教授 (90377052)
|
Keywords | キャッシュ・アウト / 株式等売渡請求 / MBO / 取締役の義務 / 支配株主の義務 |
Research Abstract |
本研究の目的は、M&A取引における株主救済手段の拡充を図るために、M&A取引における取締役及び支配株主の(少数)株主に対する義務の確立と、差止めを中心とした仮処分による救済方法の拡充を図ることにある。2013年度は少数株主の締出取引における支配株主の義務についての研究と、締出取引の差止めについての研究に取り組んだ。 支配株主は議決権を背景に対象会社の取締役・取締役会と株主総会を支配しているので、支配株主は自らの望むタイミング・条件で締出取引を実行することができる。締出取引は、実質的に見ると、少数持分の売買である。締出取引においては、少数持分の買主である支配株主は少数持分の売主(少数株主)になりかわって取引の条件を定めていることになる。支配株主は少数持分の売主と買主の立場の双方に立っているといえるので、締出取引は自己契約(民法108条)類似の取引ということができる。このような取引が許容されるためには取引の双方を等しく満足させることが必要であり、支配株主は、支配株主が自己契約性を払拭しない限り、締出取引によって生じうる会社の価値の増加分を支配株主と少数株主の間で1:1の割合で分け合うような取引(公正な取引)をする義務(結果債務的な義務)を負うと考えるべきである。 締出取引を差止めるためには、株主総会決議取消しの訴え(会社法831条1項3号)を被保全権利とする民事保全法23条2項の仮処分による方法が考えられる。この方法はタイミングの制約や取消要件の実体性(対価の低廉性)から、取引形成プロセスの監視・是正という差止めを求める訴えに期待されるべき役割を果たすのに適していないと思われる。裁判所がこのような役割を果たすには、取締役の義務違反の有無に着目する方法(会社法360条や会社法改正で新設予定の784条の2などを用いる方法)の方が優れていると思われる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、M&A取引における対象会社の株主の救済法理を再構築し、裁判所による株主救済を拡充する方法を提唱することにある。この目的を実現するために、(1)取締役の(少数)株主に対する義務の構築、(2)支配株主の会社と少数株主に対する義務の設定、(3)差止めを中心とした仮処分による救済手段の拡充、の3つを具体的な研究項目として設定した。 2012年度は、当該年度に「会社法制の見直しに関する要綱」が公表されたので、会社法改正で新設予定の株式等売渡請求制度を中心に、支配株主による少数株主の締出取引(キャッシュ・アウト)における対象会社の取締役の義務について研究を行った。2013年度は、締出取引における支配株主の対象会社と少数株主に対する義務についての研究と、取締役の義務違反を媒介とした締出取引の差止め(会社法360条によるものと会社法改正で新設予定の組織再編の差止めに関する一般規定(会社法改正法案の784条の2など)によるもの)の可否について研究を行った。 研究計画では、最終年度の2014年度は、2012年度と2013年度の成果を踏まえて全体のまとめを行うことになっている。既に、上記の具体的な研究項目の3つについて基礎的な研究は終えているので、当初の計画通りに、概ね順調に進んでいるものと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
2014年度が最終年度なので、今後は2012年度と2013年度の成果を踏まえ、全体をまとめる作業が中心となる。その際、以下に述べるような日米の新たな動向を適宜反映させる必要がある。 アメリカ合衆国デラウエア州裁判所において、2014年4月に支配株主による少数株主の締出取引について、長年の懸案だった問題に決着を付ける非常に重要な判決が下された。MBOと密接な関連のあるレブロン義務に関しても、デラウエア州衡平法裁判所は重要な判断を相次いで下し、それを受けてアメリカにおけるレブロン義務を巡る議論は新たな局面に入っているといえる。アメリカにおけるこれらの動向は、理論的な観点からも、実務的な観点からも、日本のM&A法制にも大きな影響を与えると思われるので、研究に反映させる必要がある。 日本においても、2014年4月に下されたアムスク事件判決のように、研究課題と密接に関連する重要な裁判例が今後も相次いで登場することが予想される。現在開催中の国会で会社法改正法案が成立し、2014年末までにはそれに基づく法務省令も公表され、パブリックコメント手続に付される見込みである。2014年度は改正後の会社法の規定に基づく研究を確定的に行えるようになるだけでなく、法務省令も踏まえた具体的な解釈論(特に開示関係)を展開することも可能となるはずである。 2014年度は、日米のこれらの新たな動向を踏まえ、研究全体をまとめる作業に取り組んでいく。
|