2015 Fiscal Year Research-status Report
移民の流れの適正な管理と難民保護の両立の条件―EUの共通移民政策の分析
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24530115
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
中坂 恵美子 広島大学, 社会(科)学研究科, 教授 (20284127)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | EU / 難民 / 移民 / アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は次の二つの側面での研究を行った。一つはアジア諸国の移民の状況とEUの共通移民政策のアジアに対する影響の調査である。これは昨年度の調査の不十分な点を補うためのものであり、昨年度はアジアにおける移民の問題へのEUとの関わりを明らかにできなかった点を踏まえ、本年度はEUと共同でプロジェクトを行っているフィリピンのSCALABRINI MIGRATION CENTERを訪問し、同国及びアジア諸国のヨーロッパへの移民の状況について意見交換を行い、得られた情報からEU資料を調査した。研究計画を立てた当初は、EUのアジアに対する主な関心事は人身取引の防止などであろうと予想を立てたが、必ずしもそうではなく、欧州に受け入れた人々の統合問題などへの関心が強いことがわかった。しかしながら、移民問題について出身国と受入国の両者での協力関係を築くことは難しい課題といえる。 もう一つは、EUの共通庇護政策の分析である。2015年度は、第二次世界大戦後最も多くの難民がうみだされ、連日のように「欧州難民危機」が報道される日々が続いた。ブリュッセルでも度重なる会合が開かれ、リロケーションなどの緊急措置が決定されることになった。これらの動きを正確に捉え分析するために、ブリュッセルでの調査及びインターネットを用いた調査に多くの時間を割いた。これまでEUの移民政策や難民政策に対する関心がほとんどなかった日本社会でもこの問題が大きく取り上げられることになり、新聞、テレビ、ラジオ等マスメディアへの取材協力も多く行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初4年間で終えるはずであったが現在やや遅れている状況である。理由は複数あり、一つには自分自身の大学における他の職務が多忙を極めたことである。特に2年目に研究に十分な時間を取れなかった。他の側面としては、研究対象自体に大きな変化があり、予定外の調査を多く行わなければならなくなったことがあげられる。すなわち、2015年はシリア情勢の悪化に伴い戦後最大という難民数を記録し、欧州にも想定外の庇護申請者がやってきたことにより、EUも通常の制度外での対応を行うことを余儀なくされた。この問題は本研究にも大きな影響を与えるものであり、次々と変わる状況を正確に把握する作業が必要となり、それに多くの時間を割かねばならなかった。 しかしながら、全体としては当初の構想を大きく外れることなく課題を一つずつこなしている。1年目から3年目の間に行うべき調査を4年めも含めてひと通り終え、4年目に行うはずであった全体のまとめにあたる作業が残されている段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、これまでの4年間に行った研究をまとめる作業を行う。これまでに、北アフリカ、ヨーロッパ東部、アジアという地域ごとにEUの共通難民政策及び共通移民政策の影響を調査してきたが、これらを総合して、さらにそれらにカバーされない地域も含め、EUの共通庇護政策及び共通難民政策の世界的な影響を分析する。この点に関して、研究計画を立てたときよりも、北アフリカさらには地中海沿岸という地域の重要性が著しく高くなっているので、その部分には特に重点をおいて考察する。特に昨年EUが度重なる緊急会合で行った措置(特に、内部での難民のリロケーション及びトルコとの非正規入国者の送還取り決め)の有効性についての分析を行う。また、人身取引や密入国幇助への対策についての調査なども行う。 また、これまでどちらかというと庇護政策に大きな比重をおいて研究を進めてきたが、本年はEUの共通移民政策の分析にも力を入れたい。正規の移民ルートの整備は非正規な移民の規制という側面からもまさに必要であること、さらには、人道的な理由で受け入れた避難民の出身国への帰還をどう進めるのかがこの先益々重要な課題となると思われるからである。 最終年度として、研究成果の発表のために学会等での報告も行いたい。
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Causes of Carryover |
上述したような理由で、当初の予定どおり4年間で研究を終わらせることができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、これまでの4年間に行った研究のまとめを行うが、その際に必要となる補足的な調査及び学会等での報告の出張のために残額を使用する予定である。
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