2012 Fiscal Year Research-status Report
地方財政自主権の強化と国家統合の相克―イギリスの領域政治を中心に
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24530123
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山崎 幹根 北海道大学, 大学院公共政策学連携研究部, 教授 (30295373)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | イギリス / スコットランド / 権限移譲 / 財政自主権 / 統治構造 |
Research Abstract |
今年度は、先ず、イギリスの全国政府が各「領域」に配分している一括交付金を算定する際に利用されているバーネット・フォーミュラをめぐる議論を検討、整理した。近年、スコットランドへの財政資源配分方法に対する関心と批判が高まり、2009年に貴族院においても委員会報告がまとめられた。バーネット・フォーミュラに対して、政治家やメディアなど「アウト・サイダー」は客観的かつ完全な情報を持たないまま特異に見える現象を批判する傾向が強い。これに対して、スコットランド政府および中央政府の財務省は専門性、閉鎖性に裏付けられた「インサイダー」として紛争顕在化を回避し、現状維持を共通の利害として行動しており、当面、こうした対応戦略が維持されるものと思われる。この点に関し、ロンドンおよびエディンバラの政権党の相違や交代は、ほとんど影響を与えていない。 また、スコットランド分権改革10年の成果を検証し、さらなる権限移譲を勧告したカルマン委員会報告をめぐる各党の対応を検証した。独立を志向するSNPは同委員会に対して批判的な立場にある一方、保守・自由民主・労働の3党は連合王国維持の立場からこれを支持した。ところが、財政自主権の強化に対しては、各党の考えに相違があり、財政上の連邦制(fiscal federalism)を主張する自由民主党、現行制度の維持を基本とする労働党、財政上の自立を志向する一部勢力を内包する保守党間に、スコットランド政府・議会の権能、さらには、国家構造のありかたに対する考え方の差異があり、今後の独立論議、そして選挙キャンペーンを通じて、立場の相違が顕在化することが予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近年のスコットランド政治における大きな変化として、2007年選挙におけるSNPの勝利、2009年のカルマン委員会報告、そして、2011年選挙におけるSNPの大勝と独立を問う住民投票実施の決定、と大きな変化が続いており、こうした政治動向に合わせて、スコットランドと連合王国の統治構造のありかたに関して、研究代表者が設定した問題関心に即した議論が現実政治において顕在化し、また、メディアにおいても取り上げられる機会が増加しており、これらをフォローすることが研究上有益であった。それとともに、政治学者、財政学者らによる研究も十分とは言えないが産出されており、研究を整理する上で効果的な形で参考にすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画作成当初の予定通り進める。本研究の二年目は、不均一な権限移譲が社会的シティズンシップの概念にどのような影響を与えたかを考察するとともに、財政自主権の強化、独立議論の中での扱われ方に焦点を当てる。また、スコットランド独立の住民投票に対する賛成、反対両派のキャンペーン運動が本格化しつつあり、この動向を把握することに努める。そのため、現代イギリス、スコットランド政治に関する最新の文献・資料を入手し、学界における理論面および現実政治における対立軸を整理する。さらに、こうした研究のため、国内の図書館等で文献や雑誌の閲覧を行うとともに、スコットランド国立図書館などにおいて現地調査を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究においては、経費を効率的に執行することができたこと、さらには、研究計画作成当初に予想していた財政自主権の改革に関する文献・資料がイギリスにおいて余り刊行されなかったことから残額が生じた。次年度は、独立をめぐる住民投票のキャンペーン運動がすでに活発化していることから、多くの文献・資料の刊行が予想されるため、これらを中心とした購入・複写に充当するとともに、上記の現地調査のための経費として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)