2013 Fiscal Year Research-status Report
地方財政自主権の強化と国家統合の相克―イギリスの領域政治を中心に
Project/Area Number |
24530123
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山崎 幹根 北海道大学, 大学院公共政策学連携研究部, 教授 (30295373)
|
Keywords | イギリス / スコットランド / 権限移譲 / 財政自主権 / 統治構造 / 社会的シティズンシップ |
Research Abstract |
今年度は先ず、既存の研究成果を整理しつつ、不均一な権限移譲と社会的シティズンシップとの関係に関しての考察を行い、福祉政策に関するユニオニズムとナショナリズムとの対立の構図を明らかにした。ユニオニズムは、共有するコミュニティとして連合王国の維持を重視しており、その範囲での権限移譲とは両立する一方、再分配政策の権限移譲に対しては共通の社会的シティズンシップのきずなを解体するものとして反対する考えに立っている。これに対し、ナショナリズムは、スコットランドというより小さい単位でのコミュニティが、負担と給付のレベルの決定に際して、また、給付政策と他の社会政策との関連付けにおいて、福祉サービスを提供するのに適しているとの立場にあるが、域内の税収で福祉政策を完結することが可能かについて課題を抱えている。 ところが、福祉政策を担う政府、換言すれば共有するコミュニティの単位に対するにコミットメントに関して、政治学者のジェフリーは「権限移譲のパラドクス」が存在すると指摘する。世論調査によれば、多数のスコットランド市民は税源や社会保障に関する権限移譲を望む一方で、政策水準が他地域と比較して格差が生じる状態を望まないという矛盾した意向が存在し、ユニオニズムとナショナリズムの対立の構図のみで権限移譲および独立に関する論争を理解することに対する留意点が明らかになった。 一方、スコットランド独立を問う住民投票の日程が具体化するにつれて、上記の論点との密接に関連しながら、北海油田の石油ガス税収の今後の見通し、独立後のスコットランドがポンドを使用し続ける通貨同盟の可否、独立後のスコットランドのEU加盟の可能性に関する争点が形成されるようになり、賛成、反対両派のキャンぺーン活動の把握と分析に努めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スコットランド政府により、2014年9月18日に住民投票を実施することが正式に決定し、2013年11月26日には、スコットランド政府が独立後のスコットランドの将来像を示した白書を刊行するなどの変化が見られ、それとともに独立賛成、反対のキャンペーンが本格化した。本研究では、こうした動向を、地元紙を購読し、また、独立論争に関する刊行物を収集、分析する作業を通じて、両派の立場や個々の争点に関する理解を深めた。また、スコットランドの研究協力者との意見交換を通じて、SNPの位置づけや、スコットランド政治への中期的な影響などに関する知見を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の三年目となる本年度は、SNP政権によって9月18日に実施されるスコットランドのイギリスからの分離独立を問う住民投票キャンペーンの動向を実証的に考察し、財政自主権強化の是非、社会的シティズンシップをどのように一国全体として維持するのか、福祉国家体制の持続に関して検討を行う。特に、本研究が対象としている財政自主権に対する評価を政党政治の対立を軸に考察する。そして、スコットランドの分離独立を目指すナショナリストであるSNPと、イギリスの国家の枠組みを維持することに関して共通の位置に立つユニオニストである保守党、労働党、自由民主党との論争に焦点を当てる。具体的な争点として、北海油田における石油・ガス税収の中長期的見通し、独立後の経済政策、独立後のスコットランドのEU加盟の可能性、独立後のポンド使用の可能性について注目し、両派の考え方の相違とスコットランドにおける世論の動向との関連を、現地メディアの報道や、現地研究者による研究成果を逐次参照しながら把握する。 なお、独立議論の各争点、そして現代イギリス政治の動向をいっそう理解するためには、イギリス政治の専門家との意見交換の機会を設けることが重要となる。こうした研究を進めるために、スコットランド国立図書館などでの資料収集のほか、現地の研究者を訪問し意見交換を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度において、本研究の協力者であるポール・ケァニィ教授が平成25年9月に日本政治学会の分科会報告者として、さらに11月には国立国会図書館のシンポジウムにおいて基調講演およびパネルディスカッション参加者として二度来日した。本件は研究計画作成当初予定していなかったことであり、本研究代表者はそれぞれの機会に討論者、パネルディスカッション参加者として加わり、ケァニィ教授と現代イギリスおよびスコットランド政治の現状と課題について十分な意見交換行うことが可能となり、研究計画において予定していたイギリスの現地調査を見送ったために残額が発生した。 平成26年度において、独立をめぐる住民投票のキャンペーン運動の動向をより詳細に把握するための文献、資料の購入に充当するとともに、9月18日にスコットランドで実施される住民投票の動向を把握する現地調査を充実させるための経費として使用する予定である。
|
Research Products
(2 results)