2013 Fiscal Year Research-status Report
生活をめぐる地域ガバナンスの比較研究―地域交通政策を中心に―
Project/Area Number |
24530125
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
魚住 弘久 熊本大学, 社会文化科学研究科, 教授 (60305894)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
東原 正明 福岡大学, 法学部, 講師 (00433417)
大黒 太郎 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (20332546)
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Keywords | 過疎 / 生活 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度を踏まえ全体としての国内調査を本格的に行うとともに、研究分担者それぞれが必要と考える研究を遂行しつつ、随時、研究会を開催した。 全体調査としては、8月19日から23日にかけて島根県飯南町にある島根県中山間地域研究センターを拠点に、同センター・美郷町役場・美郷町会議員・NPO法人別府安心ネット・島根県庁などで本調査を行った。地域交通、特にバス事業については、基礎自治体と町内会を中心とする地区の関係、既存のバス事業者との関係、県との関係など、地域交通の制度面での運用について調査を進めることができた。また、あわせて「生活をめぐる地域ガバナンス」全体についての知見も深めることができた。本年度は、研究代表者が研究拠点を熊本に移したことから九州での第三セクター鉄道の調査にも着手した。 海外調査については、オーストリアを中心に進めた。オーストリアでの昨年度の研究成果の一部については、「生活をめぐる地域ガバナンス」の文脈で、藻谷浩介ほか『里山資本主義』(角川書店、2013年)のなかでとりあげられた。アメリカとドイツについては文献調査を中心に進めた。 現地調査では、ヒアリングに合わせて行政文書等の資料収集を実施している。その副産物として2013年の日本行政学会・共通論題で「文書管理と行政研究のあいだ―行政文書の内と外―」が報告され、論文として公表された。 研究会は7月、1月、3月に開催し、各自の研究の進捗状況について報告するとともに、研究の重点項目の見直し、日本における過疎研究の雑誌レビューの報告会を行った。さらに、研究の社会貢献という点から「住民・職員の参加・協働による地域づくり―福島飯舘村の過去と現在―」と題する講演会を熊本で企画・開催した。これについては、地元紙の「熊本日日新聞」や「朝日新聞」(熊本版)で写真つきで紹介された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は3年間の研究期間の中間年度にあたる。テーマである「生活をめぐる地域ガバナンスの比較研究―地域交通政策を中心に―」のうち「地域交通政策」については島根県で密度の濃い調査を行うことができた。地域の人々・自治体関係者・地方議員・研究者との間で人的ネットワークができたことは大きな意味がある。こうしたネットワークを活用して、「住民・職員の参加・協働による地域づくり―福島飯舘村の過去と現在―」と題する講演会を開催し、研究成果の一部を社会へ還元することもできた。また、研究会を通じて過疎研究の雑誌レビュー論文を執筆する準備を進めた。 以上に加えて、地域交通政策にとどまらない「生活をめぐる地域ガバナンス」へ研究を広げる足掛かりもできつつある。原発事故後の日本での生活(暮らし)にとって、エネルギー問題や農業問題は、避けることができない重要なテーマである。様々な取り組みのなかで地域交通に限定されない「生活」に関する研究の広がりもでてきた。福島では研究分担者が「かーちゃんの力プロジェクト」を通して、原発事故後の被災地の生活復興について、農家・自治体との間の「生活をめぐる地域ガバナンス」構築のための実践をしているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は本研究の最終年度である。主に、研究論文の取り纏めにつなげるための研究会を複数回開催するとともに、必要な調査を行うことにしたい。 過疎地域の地域交通については、研究代表者が研究の基盤を熊本に移したことから、新たな調査フィールドを得ることができた。日本の現状に示唆を与えるという観点から九州内にある第三セクター鉄道(6社)を調査し、(これまでの調査も加えて)現場からの論理・問題点の抽出を試みたい。海外との比較から知見を得ることについては、先にあげた『里山資本主義』に端的に示されるように、ヨーロッパが参考になると思われる。このことを踏まえつつ、重点研究項目について若干の軌道修正を行い、ヨーロッパでの知見に重点を置きつつ研究を進めたい。(アメリカについては、現時点では主に文献調査を進めてはどうかと考えている。) こうした研究成果は論文として公表することが学術的な貢献となる。そのための第一の計画は、日本の過疎研究についてのレビュー論文の作成である。第二の計画は、海外調査(文献調査・現地調査)の成果を取り入れつつ「過疎地域における暮らしの現場と政治・行政―比較の視座を取り入れつつ―」(仮称)との論文を共同執筆(あるいは各人ごとに執筆)することである。また、研究の社会的な貢献も重要である。原発事故でそれまでの生活そのものが破壊された福島での「生活をめぐる地域ガバナンス」の構築について「かーちゃんの力プロジェクト」を通して実践していくことも続けたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
消耗品を節約できたため。 来年度は消耗品で活用したい。
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