2013 Fiscal Year Research-status Report
明治期府県会の制度的断絶と議員属性の変化:名望家の政治的忌避と府県会の政党化
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24530138
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
森邊 成一 広島大学, 社会(科)学研究科, 教授 (50210183)
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Keywords | 近代日本政治史 / 府県会 / 名望家 / 政党化 |
Research Abstract |
前年度に引続き、いくつかの府県について、仮設的なデータの集計を行ない、全国データの集計・整理のためのフォーマットの作成を行なうべく、研究を進めた。 その際、明治初期の府県会選挙においては、制度そのものに未確立な点があり、全国的なデータの集計に、困難があることが判明した。まず、「府県会規則」は、「議員ノ任期ハ四年」と定めるが、明治13年「内務省乙第一二号達」をもって、任期四年とは、通常会を四度勉めることと解釈の変更を加え、明治17年「太政官第89号達」は府県の会計年度を7月から4月開始に変更し、通常会の招集月も、3月から11月へと変更された。こうした制度変更と各府県による運用上の都合から、通常会の招集・閉会の時期は一定せず、議員任期も、各府県、各時期で不定期に伸縮した。こうした不備・不整は、明治22年の府県会議員選挙規則により、是正されたが、明治23年改正府県制により、「複選制」の導入が図られ、結果的に新府県制の施行府県と非施行府県の制度上の分裂が生じた。選挙に適用されるべき法令・制度と、その具体的な運用において、地方毎の不整合が確認された。 また、明治23年府県制の導入が、議員の行動に与えた変化を確認するために、施行県のA県と非施行県のH県とを比較すると、議員の中途辞職は、明治10年代前半の50%超から、明治10年代の後半の30%代へと傾向的に低下するものの、国会開設を経た明治25年以降、H県では、国会議員への転出を除く辞職率は、10%以下に低下した。しかし、施行A県では、そのような低下は見られず、「複選制」の下で、名望家の議員忌避が続いていた。また、H県では、改進党系・自由党系の議員の政党所属率は、明治10年代20年代を通じて、概ね20%~30%代で推移し、安定した議員の政党所属が、確認できるものの、A県では、特に「複選制」の下で、政党化が抑制され、10%に満たないことが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までの達成度は、やや遅れ気味である。全国的な府県会議員の中途辞職率、再選率、新人当選率、政党所属率、その他議員属性のデータを集計するために、仮設的な集計作業を前年の千葉県、和歌山県等に加えて、富山県、栃木県、埼玉県、京都府などで行ったが、未だ、確定的な集計フォーマットを作成できないでいる。 第一の理由は、当初、明治初期であっても、「府県会規則」以下の法令により、全国で画一的な選挙実施・議員任期などが見られたと想定していたが、実態は、国の方針自体も一定せず、各府県の地方官の運用も、地域の様々な実情から多様性を帯び、そうした多様性を、同集計に反映させるか仮設が確立できないでいるからである。 第二に、適用される法令も、府県により、明治22年府県会議員選挙規則と明治23年改正府県制と異なり、また、東京・京都・大坂・神奈川・兵庫・広島の各府県には、三部経済制があり、大都市に人口比以上の定数の配分があり、その導入の時期により、選挙制度自体も、修正を被っていることから、大都市をかかえる府県の特殊性をどう取り込むか、問題がある。 第三に、明治期の府県会議員は、予想以上に、多数の議員が中途辞職しており、補欠充当された議員もまた中途辞職するなど、議員個々人の異同それ自体を確定するのに、時間がかかっているからである。特に、国会開設以後、明治期には、国会議員への転出が、府県会議員の中途辞職の大きな要因となっており、転出を確認すること、特に落選者の場合、確認作業に困難を伴っている。 第四に、警察資料などで、明治20年代以降、議員の政党所属または提携関係を確定できる地域とそうでない地域があり、全体としてこれをどう処理するかについても、検討している状態である。研究開始の時点では、想定外の困難な想定以上の作業量が生じたことから、研究の進展はやや遅滞している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、引き続き、各府県議会の議員データの集計を行いつつ、データを比較可能にするための集計フォーマットの確定に努める。その際、上述のような困難を前提に、 1.明治23年府県制の早期施行11県と、非施行の神奈川、京都、岡山、広島・香川六府県の集計を先行して、「複選制」が、議員属性に与えた、変化の有無を、比較検討する。これにより、「複選制」導入を主導した山県有朋の、「財産ヲ有シ智識ヲ備フル所ノ有力ナル人物コソ議員タルノ地位ヲ占メン」という意図が、実際に、どこまで実現せられたか確認する。 2.新潟、富山、福島、栃木、埼玉など、各県会の政党会派所属データが、得やすい府県から、府県会議員の政党化の進行についてのデータを集計する。上記の1とともに、党派性が、議員の長期在任を促しているかどうか、確定するためである。 3.これに加えて、議員の氏名と、『全国資産家地主資料集成』等に掲載される職業(地主的土地所有・会社役員)データとをつきあわせることで、明治府県会議員の社会的属性についても、可能な限り特定する。 全体で、全国の概ね半数の府県に於いて、データの集計を終わられることを、26年度の研究の達成目標とする。
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