2014 Fiscal Year Research-status Report
明治期府県会の制度的断絶と議員属性の変化:名望家の政治的忌避と府県会の政党化
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24530138
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
森邊 成一 広島大学, 社会(科)学研究科, 教授 (50210183)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 近代日本政治史 / 府県会 / 名望家 / 政党 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引続き、データの入手可能な府県について、データの集計・整理を仮説的な整理フォーマットに従い行った。新たに集計した府県は、山形、新潟、埼玉、熊本である。 明治11年、府県会規則下の県議会において、いずれの府県でも、当初50%を超える議員が任期途中で辞職したが、明治10年代20年代を通じて、辞職率は傾向的に低下した。その際、県議会の政党化が著しく進んでいた富山県などでは、明治20年代には衆議院議員への転出を除き辞職率が10%台に低下するのに対して、政党化が遅れた愛知県では、明治30年代前半でも30%台を維持し、中間的な広島県では、20%台を記録した。 また、明治23年府県制施行に伴い、富山県では前回選挙での当選者の再選率が9.6%に急低下するのに対して、愛知県では55.8%と高い再選率を記録している。山県有朋が企図したように、政党化が進んだ県では、複選(間接選挙)化に伴い、議員構成が変化したのに対して、非政党的名望家が多かった所では、議員構成の変化が少なかった。政党化が中間的で複選制の施行がなかった広島県では、30%代後半から50%の再選率で推移する。そして、明治32年府県制全面改正の前後で、富山県と愛知県の再選率は、それぞれ38.7%と40.8%で変化がない。少なくとも富山県においては、複選制の下での政党化が急速に進行し、政党排除の山県の意図が自ら認めるように挫折したことがうかがえる。 以上のように、選挙制度の変遷を踏まえ、議員の所属政党のデータが入手可能な府県においては、政党化が進行した場合、辞職率が早期から低下し、複選制の導入により議会の政党化に一定の歯止めがかかるものの、その効果が急速に失われたのではないかと推定できそうである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までの達成度は、やや遅れている。全国的に、各府県会の議員に関して、その辞職率-任期満了率、再選率、新人当選率、政党所属率、その他議員属性のデータを集計している。その際、各府県会史に、当選議員の一覧的な総括表を掲げるものと、編年式に記述する中で、各選挙の結果、当選議員氏名を掲げていくものとがあり、後者については、予想したよりも、集計に時間がかかることで、作業が停滞せざるを得ない状況にある。 第二に、各府県において、明治23年府県制の施行年が、未施行も含めバラバラで、かつ、一部県では、知事と議会との対立により議会解散の事例も少なくなく、編年的で全国的な総括表の作成困難が生じている。 第三に、明治期の府県会議員は、多数の議員が中途辞職しており、補欠充当された議員もまた中途辞職するなど、議員個々人の異同それ自体を確定するのに、時間がかかっている。 第四に、警察資料などで、明治20年代以降、議員の政党所属または提携関係を確定できる地域とそうでない地域があり、全体としてこれをどう処理するかについても、引き続き検討している状態である。 当初には、想定外の困難な作業、想定以上の作業量が生じたことから、研究の進展はやや遅滞している。また、府県議会史などの資料の整理状況から、全体として、データを比較可能な形で、整理できるのは、全国45府県(北海道・沖縄を除く)中の半数程度にとどまりそうである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、引き続き、残った各府県議会の議員データの集計を行いつつ、フォーマットに従い、比較可能な形で総括表を作り、そこから、 1.明治23年府県制の早期施行11県中のデータの集計可能県諸と、非施行の六府県中の集計可能府県との、最終的なデータの比較を行う。これにより、「複選制」が、議員属性に与えた、変化の有無を、比較検討する。これは、「複選制」導入を主導した山県有朋の、「財産ヲ有シ智識ヲ備フル所ノ有力ナル人物コソ議員タルノ地位ヲ占メン」という意図が、実際に、どこまで実現せられたか確認する作業である。 2.新潟、富山、福島、栃木、埼玉など、各県会の政党会派所属データが、得やすい府県から、府県会議員の政党化の進行について、データを集計する。上記の1とともに、党派性が、議員の長期在任を促しているかどうか、確定するためである。 3.あわせて、複選制の導入に伴い、山県の意図通り、政党化が押しとどめられたのか、また、複選制下での政党化の進展について、明治32年新府県制の前後での議員属性、政党所属や再選率の変化を確定することにより、山県が自ら認めるような政党化阻止の挫折について、客観的なデータを得るように作業を進めることとする。 全体で、全国の概ね半数の府県に於いて、集計したデータを、最終的な総括表にまとめ、それを分析し、上記の論点に関わる、確定的な知見を、論文等の公表を通じて、提示することを目指す。
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