2013 Fiscal Year Research-status Report
地域コミュニティによる小規模公共サービス供給の可能性―自治体内分権の比較事例分析
Project/Area Number |
24530159
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
徳久 恭子 立命館大学, 法学部, 准教授 (60440997)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
栗本 裕見 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 特別研究員 (00449539)
|
Keywords | 自治体内分権 / 公民連携 / 中間支援組織 / 地縁型組織 / 上越市浦川原区 / 恵那市山岡地区 / 山形県川西町吉島地区 |
Research Abstract |
本年度は、地域住民による小規模公共サービス供給の可能性を検討するため、定期的な研究会、取り組み事例の継続調査、比較検討の材料となる新規事例の調査を行った。継続調査は、上越市浦川原区において実施した。これまでの研究で「地域づくり振興会議」が地域内の団体間の連携を促進し、住民組織による小規模公共サービスの供給を下支えしていることを明らかにしたが、本年度はそうしたインフォーマルな制度の生成と、地域自治区導入以前からのまちづくりとの関係を調査する目的で、「地域づくり振興会議」の主要メンバーとも関係が深い、浦川原区の地域づくり団体の調査を行った。同団体は、廃校施設を拠点に外部の人材を積極的に活用し、市町村合併以前から交流事業を行ってきた。これらの取り組みが、人口減少や高齢化問題への関心を生み、福祉サービス供給を促す基盤となるとともに、人材の供給源になったことが確認された。 浦川原区との比較を視野に、本年度は山形県川西町吉島地区への調査を新規に実施した。同地区も、浦川原区同様地域全体でNPO法人を設立し、子育て支援、所得づくり等の小規模公共サービスの供給を意図した積極的な事業展開をしている。他方、主要地域団体を包摂する組織構造や、地域からの支援が安定しており、吉島地区の方が地域内の連携や調整がスムーズに運んでいる。二事例を通じて、公共サービス供給を目的とした地域ぐるみNPOが地域に受容され定着する条件として、団体間のネットワークのあり方、提供したサービスの住民ニーズへの応答性などの点がポイントであると推測できる。なお、11月には日本地方自治学会で、この2地区に恵那市山岡地区を加えた3地域の地域ぐるみNPO法人の比較をテーマに報告した。 他に、都市部における小規模公共サービス供給に向けた地域再組織化について、大阪市において情報収集も実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究で、地域住民が小規模公共サービスを担うには、地域課題の設定と地域の団体間連携によってサービス供給の実働体制を機能させることが重要であること、およびこれらが公式の制度のみによっては安定せず、地域内部での試行錯誤が行われていることを示してきた。今年度は、上越市浦川原区での追跡調査を行い、地域内で自治体内分権以前から形成されてきた団体間の関係や、地域での人材活用について知見を得た。合併以前の地域内ネットワークのあり方が、地域での公共サービス供給の推進に影響していることが明らかになった。この点については、新規事例として調査を実施した山形県川西町吉島地区でも共通しており、地域のまちづくりの経験が地域内の連携パターンや人材供給の基礎となっており、一種の地域資源としてはたらいていることが確認できた。 地域内での小規模公共サービスの供給は従来の地域活動とは明確に違い、地域はこれへの対応が求められる。地域団体間の連携構築には、従来からの地域資源の影響とともに、組織間の摩擦や地域団体をめぐる資源配分の変化に関する団体間の受容・調整についての実態をふまえた分析が必要となる。今年度の研究からは、地域ぐるみNPOが事業化したサービスが地域内のニーズを顕在化させ、組織の新規顧客をつくり出したことがプラスに働いたと推測できる。今後は、地域のリーダーや地域団体への調査を実施し、この仮説の妥当性を検証し、受容・調整のプロセスを明らかにすることが課題となる。 今年度までの予備調査などから、小規模公共サービスの供給については、人口規模を問わず地縁型組織が中心とならざるを得ない実態が明らかになっている。その点で、今年度に調査した事例は一定の普遍性を持ち、本研究の事例選択と研究視角の妥当性が検証されている。以上から、平成25年度の研究は「おおむね順調に進展している」という達成状況にあると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度と同様に、研究代表者と分担者で定期的に開いている研究会で課題を共有しつつ、調査に向けた準備、事後の成果確認という課題の洗い出しというサイクルを核とする研究体制を保持する。 平成26年度については、これまでの調査を踏まえて、地域コミュニティによる小規模公共サービス供給の条件を分析することを目的とする。分析に際しては、単なる事例紹介に終わるのではなく、政治学的な分析枠組みを用いて、住民団体による小規模公共サービスの提供が行われる条件を明示することを心がけたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者である徳久が、2013年初夏に体調を崩し、2週間の検査入院を含む療養が続いていたため、平成25年度に実施を予定していた調査を分担者である栗本一人で行ったこと、代表が実施を予定していた海外調査を見送ったことで、使用額に差が生じた。 とはいえ、病気療養中も研究代表者と分担者は定期的に連絡をとりあい、11月以降は定期的に研究会を実施することで、情報や課題を共有しており、それらを平成26年度の調査計画に反映している。 平成26年度は、平成25年度に栗本が行った調査の追加調査を行う。代表と分担者が平成25年度に行った課題の洗い出しによれば、本研究が対象とする3地区の相違は、まちづくり協議会という新しい組織に対する住民側の理解を得られたかどうかによるところが大きいことが確認できた。しかしながら、これまでの研究は行政や当該住民組織へのヒアリングにとどまっていたため、追加調査が欠かせないと考える。あわせて平成25年度に実施を見送った海外調査を実施することで、本研究の調査仮説を精緻化したい。 平成26年度の予算執行は、国内・海外調査を実施する費用に充当することを第一の目的とする。ついで、調査および成果報告作成に必要な文献の購入、インタビューで得た資料や録音資料などを整理・補完するための機器購入などに充てることとしたい。
|
Research Products
(3 results)