2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530163
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
仙石 学 西南学院大学, 法学部, 教授 (30289508)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 政治学 / 経済政策 / 福祉政治 / 多国籍(中東欧) / 新自由主義 |
Research Abstract |
2012年度は研究計画の1年目として、中東欧諸国における体制転換後の経済政策を、「新自由主義的(ネオリベラリズム的)政策」を軸に検討を行い、これと福祉の枠組みの連関について確認する作業を中心に実施した。その結果として、以下のような成果をえた。 1) 中東欧諸国の経済政策に関しては、一方ではバルト3国(特にエストニア・ラトヴィア)は体制転換の直後からネオリベラル的な政策を推進し、逆にスロヴェニアはネオリベラル的な政策とは継続して一線を画しているという点でそれぞれ継続性がみられるのに対して、ヴィシェグラードの4カ国に関しては、新自由主義的政策の実施をめぐり経済政策が変化している、具体的には、ハンガリーとポーランドでは、当初は共産党の後継政党が緊縮財政や福祉削減などの緩やかな新自由主義的政策を実施したが、その後これへの反発から本格的な新自由主義的政策の実施には向かわなかったのに対し、チェコとスロヴァキアでは社民系政党とリベラル系政党の対抗関係の中で、リベラル系の政党が政権についた際にはより本格的な新自由主義的政策が実施される、という相違があることが確認できた。このような相違が生じた理由としては、社会主義期における西側経済学の浸透の程度の相違や、体制転換後の改革をめぐる政治過程の相違が作用している可能性が高い。 2) この経済政策の相違は、福祉の形の違いと直線的に結びついているわけではないが、それでも両者はそれぞれの国において一貫した論理で結びついている。例えばエストニアでは「国家の存続」という要因が新自由主義的政策と普遍的福祉とを結びつけているし、チェコとスロヴァキアでは国内の2極化と政権交代が新自由主義的改革の推進と労働者保護の存続を結びつけているという状況にある。 この成果を踏まえて2013年度は、経済と福祉の連関について、他地域との比較も踏まえたより体系的な分析を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主要な目的は「社会主義体制の解体後に各国において構築された福祉制度と各国の経済政策との関係、特に多くの国において両者の間に政策指向の方向性に「ずれ」が生じていることに着目し、その位相のずれが生じた理由を政治経済の視点から検討する(交付申請書より)」ことにあるが、2012年度のネオリベラリズムに焦点を当てた研究を通して、一見すると矛盾している(「ずれ」がある)ようにみえる経済政策と福祉枠組みの関係も、「その国なりの」相応の理由に基づいて、全体としては整合的に結びついている可能性が高いことを明らかにできたという点で、研究の目的はおおむね果たすことができたと考えられる。次年度はこの成果を元に、中東欧諸国における経済と福祉の連関を、他地域の事例も踏まえながらより一般的、体系的な形でまとめていくことを試みたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も引き続き、主として文献資料、公文書、統計資料など「公開されている資料」をもとにして、中東欧諸国の経済政策と福祉枠組みの連関について検討していくこととする。その際特に、(1)2012年度は主として各国における実態の整理を調査の中心としたが、2013年度はこれをより一般的な分析枠組みとしてまとめあげていくこと、(2)対象の事例について、従来の中東欧8カ国に加えて、可能であればクロアチア、ルーマニア、ブルガリアなどの後発EU加盟国、もしくはEU加盟候補国についても、分析の対象とすること、および(3)中東欧の事例をラテンアメリカや東アジアなど、他の新興民主主義の事例と比較することで、経済と福祉の連関に関して地域横断的に見られる要素、および特定の地域に固有のものとして確認できる要素を確認し、より説得力のある議論を提起していくこと、を試みることとしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2012年度に関しては、科研費を主として海外および国内出張旅費並びに資料購入のために利用したが、ここで当初は2回実施する予定であった北海道大学スラブ研究センターでの資料収集について、これを学内業務の関係で1回しか実施することができなかったため、その分の研究費を今年度に回すこととなった。2013年度も基本的には2012度に引き続き、科研費は(1)ヨーロッパ(ポーランドおよび周辺国)における現地調査、資料収集のための渡航費。(2)国内の大学(主として東京大学および北海道大学)における文献および雑誌論文集のための渡航費。(3)中東欧の経済政策および福祉政策に関連する文献・資料の購入費。(4)研究の遂行に必要となる各種の備品および消耗品費、に利用する予定であるが、特に現在は燃料費が高騰している関係で海外出張のための経費が高くなっているため、前年度の残額分は(1)の海外調査のための渡航費に追加する予定である。
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