2012 Fiscal Year Research-status Report
「狭間の地政学」をめぐる広域ヨーロッパ国際政治研究
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24530173
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
六鹿 茂夫 静岡県立大学, その他の研究科, 教授 (10248817)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / EU / NATO / ロシア / トルコ / ルーマニア / GUAM / BSEC |
Research Abstract |
計画通り、I.歴史研究とII.現状分析の二本立てで研究を進めた。前者については、①ヤルタ体制の崩壊過程を、ペレストロイカ、グラスノスチ、新思考外交、ブレジネフ・ドクトリンの放棄、東欧革命、ソ連邦の崩壊プロセス、旧ユーゴスラヴィア戦争を中心に再検討するとともに、② 冷戦後欧州国際秩序の再編過程について、CSCE/EC/NATOの「頭文字戦争」、重層的欧州安全保障制度の構築過程、東西ドイツの統一プロセスとその力学、ワルシャワ条約機構およびコメコンの解体過程とソ連の東欧中立化構想(クビチンスキー・ドクトリン)、中東欧諸国のNATO加盟志向の高揚、中東欧諸国のEU加盟熱の高まり、EU内の統合-拡大論争と妥協要因、EU/NATO拡大のプロセスと力学、NATOの「変容」と「拡大」、それに対するロシアおよび中・東欧諸国の対応を中心に再検討した。 後者については、東京にて、EEAS(欧州対外行動庁)アジア太平洋総局長とのインタヴューを通じて、EEASの政策決定プロセスを明らかにするとともに、外務省・ポーランド大使館共催による「ヴィシェグラード4+日本」の国際会議に出席し、基調講演とEU内担当官との意見交換を介して、EUの東方パートナーシップの現状について知見を深めた。また、イスタンブールではボアジチ大学の国際政治専門家およびBSEC(黒海経済協力機構)書記長との意見交換を通じて、トルコ外交とBSECの現状と課題について研究を深めた。さらに、ロシアでは、MGIMO、IMEMO、外務省などでロシア外交、EU=ロシア関係、NATO=ロシア関係、とりわけ防衛ミサイルをめぐる関係について、担当官や国際政治専門家から聞き取り調査を行った。また、ルーマニアでは、ハンガリー系少数民族の政治指導者、少数民族庁を中心に聞き取り調査を行うとともに、比較政治学の観点から半大統領が抱える課題について研究した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り、歴史研究と現状維持分析の二本柱を中心に研究を進めることができたので、研究は概ね順調に進んでいると評価できる。具体的には、第一に、ロシア、トルコ、ルーマニアに赴いて必要事項について有意義な聞き取り調査ができたことに加え、東京においても、要人の来日や国際会議を利用して、政策担当者と意見交換することができ、一般的に明らかにされていない事項について重要な情報を得ることができた。また、第二に、歴史研究も同時並行的に行い、当初の計画通り、冷戦の崩壊から冷戦後の新欧州国際秩序の構築プロセスについて、再度詳細に検討を加えることができたからである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も計画通り、現地にて政策担当官との聞き取り調査などを通じて現状分析を継続するとともに、歴史分析も同時並行的に行う。 歴史分析では、①ヤルタ体制と「狭間の地政学」をめぐる国際政治史について、第二次世界大戦中の米英ソ連合国戦時外交と欧州分割、終戦に向けた東欧枢軸国の休戦交渉と人民戦線政権の誕生過程、スターリン期のソ連=東欧関係、フルシチョフの平和共存路線と東欧民族共産主義などを中心に再検討すると共に、② ヴェルサイユ体制下における「狭間の地政学」をめぐる現状維持国家と修正主義国家対立の推移について、第一次世界大戦後の「狭間の地政学」における「力の真空」と東欧諸国家の誕生と領土確定、「狭間の地政学」をめぐる仏伊対立、仏独対立、イギリスの宥和政策と英独欧州分割、英独ソ三つ巴外交、独ソ東欧分割、独ソ対立からドイツの単独東欧支配を中心に研究を深めていく。 現状分析では、引き続き、①EUの東方パートナーシップの進捗状況、なかんずくウクライナとEUとの連合協定締結と、EUの対ウクライナ民主化コンディショナリティーの関連性、②モルドヴァの「欧州統合連立政権」の崩壊原因と早期解散選挙の可能性、それら国内要因が及ぼすモルドヴァ外交への影響、イタリアやスペインなど西欧におけるモルドヴァ人ディアスポラの現状と彼らが国内政治に与える影響、EUと同国との連合協定締結交渉およびトランスニストリア交渉に及ぼす影響、③グルジアの新政権の外交政策、ロシア-グルジア関係の推移とそれが南コーカサス政治に及ぼす影響、特にGUAMに及ぼす影響、ジュネーヴ交渉の進捗状況、④BSECとGUAM、⑤NATOの東方政策、殊にNATOとロシア、ウクライナ、グルジアの協力と対立関係、⑥ミサイル防衛問題、⑦EU-ロシア関係、東方パートナーシップと関税同盟の関係、⑧トルコ外交について研究を続ける。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用予定の研究費が生じたのは、モスクワ(MGIMO)とイスタンブール(ボアジチ大学)での現地調査を、科研費ではなく、勤務先の大学間交流費を利用して行うことができたためである。研究計画に支障をきたすことなく、科研の研究費の一部を次年度に回すことができたことで、次年度の海外調査の一層の充実が期待できる。 次年度は、グルジアの政権交代、モルドヴァ情勢の不安定化、ウクライナのEUとの連合協定締結など、黒海を取り巻く情勢に新局面が生じているため、これら地域に赴き、外務省、大統領府、国家安全保障庁、主要国大使館、GUAM(キエフ)書記長などとの聞き取り調査を行う意向である。とりわけ、同諸国の対露関係、対EU、対NATO関係、「凍結された紛争」をめぐる交渉状況について明らかにしたい。また、イタリアやスペインで暮らすモルドヴァ人ディアスポラの現地調査も行いたい。昨今、彼らが選挙を通じて国内政治に少なからぬ影響を及ぼしているためである。さらに、余裕があればブリュッセルに赴き、EUとNATOの東方政策、なかんずく東方パートナーシップの現状、黒海シネルジーの再構築プロセス、対露関係、ロシア=グルジア問題に関するジュネーヴ交渉の進捗状況、ミサイル防衛、CFE交渉について、担当者から聞き取り調査を行いたい。
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Research Products
(3 results)