2012 Fiscal Year Research-status Report
テール・リスクと世代間衡平性:公理主義的アプローチ
Project/Area Number |
24530192
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
篠塚 友一 筑波大学, 人文社会系, 教授 (40235552)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 世代間衡平性 |
Research Abstract |
現代社会では少子高齢化の進行に伴い、世代間の利害対立が深刻化している。さらに、東日本大震災などのテール・リスクが顕在化し、混迷の度合いが深まっている。本研究の目的は、衡平性と効率性およびテール・リスク回避の観点から社会的に望ましい世代間資源配分の特性を解明し、利害対立解決のための基本的指針を与えることである。初年度は、篠塚=須賀=鈴村=蓼沼の重複世代モデルに不確実性を導入するための準備として、1980年代後半から精力的行われてきた不確実性下の重複世代モデルにおける競争的均衡のパレート最適性に関する研究をサーベイした。我々の研究目的にとって、下記の論文が多くの示唆を与えてくれる。S. Chattopadhyay and P. Gottardi, Stochastic OLG models, Market Structure and Optimality, Journal of Economic Theory 89, 21-67, 1999.この論文の検討を通じて、 篠塚=須賀=鈴村=蓼沼の重複世代モデルに、定常マルコフ性を満たす不確実性を導入すると分析が容易になるが、date-event treeを用いた一般的な不確実性構造の下では、厚生分析が著しく困難になることが判明した。また、内閣府有識者会議第5回財政・社会保障の持続可能性に関する「制度・規範ワーキング・グループ」(5月8日開催)において、社会的選択理論の視点から世代間衡平性に関して報告を行った。年度の後半は、第一サブプロジェクト「無限効用流列の社会的評価基準」に関する研究を行った。この分野の先端的研究者であるAsheim, Zuberおよび坂井の最新の成果を研究することで、原=篠塚=鈴村=徐の不可能性定理からの脱却という新たな研究課題を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
衡平配分の存在と特性に関する従来の研究は、時間構造を捨象した静学的な交換経済や生産経済の枠組みでは活発に行われてきたが、動学的なモデルによる研究はほとんどなされてこなかった。とりわけ、テール・リスクを含む重複世代モデルにおける衡平配分に関する既存研究は、本研究担当者の知る限り皆無であった。初年度の前半は、不確実性下の重複世代モデルを定式化するのに有用な既存研究のサーベイを行うことを主眼とした。具体的には、1980年代後半から精力的行われてきた不確実性下の重複世代モデルにおける競争的均衡のパレート最適性に関する研究をサーベイした。我々の研究目的にとって、下記の論文が多くの示唆を与えてくれる。S. Chattopadhyay and P. Gottardi, Stochastic OLG models, Market Structure and Optimality, Journal of Economic Theory 89, 21-67, 1999.この研究を通じて、篠塚=須賀=鈴村=蓼沼の重複世代モデルに、定常マルコフ性を満たす不確実性を導入すると分析が容易になるが、date-event treeを用いた一般的な不確実性構造の下では、厚生分析が著しく困難になることを学んだ。年度後半は、メイン・プロジェクトを補完する第一サブプロジェクト「無限効用流列の社会的評価基準」に関連する研究を行い、次年度に手掛けるべき新しい研究課題を発見することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
メイン・プロジェクトを補完する第一サブプロジェクト「無限効用流列の社会的評価基準」は、無限視野の重複世代経済において、すべての資源配分の社会的望ましさを比較評価する基準が構成可能か、という研究の基礎を構成する。この研究において、最近注目すべき進展があった。(S. Zuber and G.Asheim ,Justifying social discounting: The rank-discounted utilitarian approach, Journal of Economic Theory 147, 1572-1601.T. Sakai, Representation of orderings that respect intergenerational equity, mimeo, Keio University, 2012.)これら研究結果の注目すべき特徴は、パレート原理を大幅に緩和し、supノルムに関する選好の連続性を要求すると、世代間衡平性の要求を満たす選好を社会的厚生関数で表現可能となるという可能性定理を導いたことである。研究代表者の研究(Hara, C., Shinotsuka,T., Suzumura, K. and Xu, Y.Continuity and Egalitarianism in the Evaluation of Infinite Utility Streams, Social Choice and Welfare, 31, pp.179-191, 2008.)では、supノルムに関する選好の連続性よりもはるかに弱い連続性公理を使用する一方で、Zuber=Asheim論文やSakai論文で使用された公理より強いパレート原理を使用している。両論文を検討することで、我々が導いた不可能性の結果から脱却して、可能性定理を得ることを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は3,708円である。24年度文房具等の消耗品を購入するため使用する予定であったが、業務上の都合によりその時期が遅くなった。25年度の助成金と合わせ、本研究課題の遂行に必要な事務用品の経費として使用する予定である。
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