2012 Fiscal Year Research-status Report
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24530203
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
下川 哲矢 東京理科大学, 経営学部, 准教授 (30366447)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 経済理論 / 意思決定 / 神経経済学 / 行動経済学 / 実験経済学 |
Research Abstract |
本研究の目的は「行動経済学」「神経経済学」、さらに「金融統計学」といった、金融理論を取り巻く3つの実証研究分野で得られた知見を用いて、合理的意思決定モデルのオルタナティブとなりうる、実証的基礎を持った意思決定モデルの構築に貢献することである。 このうち本年度は、「行動経済学」「神経経済学」の観点から意思決定モデルの精緻化をはかった。特に「個人差」と「レジームスイッチ」を意思決定モデルに取り込むための分析フレーム(確率的パターン認識モデル)を開発し、実験システムを完成させた。具体的には以下のような点を検討するためのフレームを完成させた。 (a)個人差が生じる要因を特定する。各個人の習熟度、性別、特定刺激に対する学習機会や刺激を経験した時間的間隔などを検討する。(b)レジームスイッチの要因を特定する。特に、市場変動(収益率分散の増減、収益率トレンドの変化、非常に大きな価格の下落といったレアイベント)および意思決定バイアス要因(未実現損益の増減、フィクティブエラーなど)を、検討対象とする。(c)意思決定モデルの精緻化を行う。 さらに、小規模な予備実験を行い、実験システムや分析フレームの有効性を、少ないデータながら、確認した。本格的な実験は来期以降の課題として残された。 関連する研究業績としては、これまで得られた神経経済学の知見を利用した投資意思決定補助装置に関する論文、実験データから得られた限定的合理的な意思決定モデルを持つ主体が構成する市場における価格形成と、現実に金融市場で観測かれる価格列の統計的性質を比較した論文を発表している。また、経済学における限定的な意思決定モデルの有効に関する、やや形而上学的な論考についての発表も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、本年度中に実験分析フレームを完成させ、さらに大規模な実験を行う予定であった。しかしながら、実験分析フレームは完成させ、予備的な実験を行ったものの、大規模な実験は行えなかった。その理由は、主として、実験システムの開発に予想以上の時間がかかった点にある。 本研究おいて予想される困難な点として、意思決定モデルの逐次学習と、生体情報測定デバイスのマルチモーダル化に伴う、機械学習量(計算量)増大がある。今回、予想以上の手間が必要となったのは、このうち生体情報測定デバイスのマルチモーダル化に伴う処理の部分である。 我々は、神経経済学によって得られた知見を意思決定モデルの精緻化に積極的に利用するために、従来の実験システムを、fNIRS、EEG、SCR、BVP等の、意思決定の記述に何らかの有効性を持つことが期待される測定デバイスに拡張し、意思決定モデルへの生体情報導入の徹底を図った。これまでこのようなマルチモーダルなシステムを用いた実験は行っていたが、その実験システムを新規の課題に載せようとしたとき、データの欠損や逐次処理でのトラブルが生じることになった。この問題に対処するために、実験システムと分析システムの切り離しを行い。実験システムを大量なデータの処理に耐えられるように一から再制作した。
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Strategy for Future Research Activity |
[平成25年度]は、意思決定分野に関係する「行動経済学」「神経経済学」の観点から意思決定モデルの精緻化をはかる。平成24年度は、分析フレーム(確率的パターン認識モデル)を開発し、実験システムを完成させたものの、小規模な予備実験を行い、実験システムや分析フレームの有効性を確認するに留まった。そこで本年度は、比較的大規模な実験を集中的に実施する予定である。これらの実験では、「行動経済学」「神経経済学」の観点から、人間の行動結果のみではなく、生体情報も同時の測定する予定である。具体的には、測定デバイスとしてmulti-modality化したものを用いる(既存のシステムを意思決定の記述に何らかの有効性を持つことが期待される測定デバイスに拡張する)。また、その結果を積極的に発表する。 [平成26年度]は、平成25年度までに行った意思決定モデルの精緻化を完成させるとともに、それをベースとしつつ、「金融統計学」の知見を用いて、市場均衡との関係から意思決定モデルの妥当性を検討する。もしある意思決定モデルが市場参加者の行動様式を的確に記述しているならば、当然その集合である市場の振る舞いとも整合性を持つはずである。ここでは、市場において観測される収益率に関する統計的性質(FSF)と意思決定モデルとの整合性を検討する。たとえば、収益率分散の強い正の自己相関や収益率分布の大尖度、取引量と収益率分散の交差相関、取引量や収益率分散と尖度の関係といった観測された事実が、我々の意思決定モデルを組み込んだ均衡モデルから生成される価格列や取引量列において再現可能かどうかを分析する。また、意思決定モデルそのものについても、引き続き分析モデルの改良や追加実験をできる限り行い精緻化を追求する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に大規模な実験を行えなかったため、当初それに予定していた費用を本年度に使用する。具体的には、実験で必要となる費用(実験補助者への謝金、実験被験者への謝金、データ処理業務に対する謝金)および論文制作にかかわる費用(主として英文校閲費用)を本年度に振り替え1100千円計上している。 物品費および旅費に関しては当初の予定通りである。すなわち、例年、実験システムに使用しているパソコンが年に1、2台故障するため、その維持のための費用(パソコン2 台分)を毎年200 千円(100 千円×2 台)だけ消耗品費として計上した。また、学会出席のための国内旅費を毎年150 千円、学会出席のための外国旅費として毎年度150 千円計上している。
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