2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24530203
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
下川 哲矢 東京理科大学, 経営学部, 教授 (30366447)
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Keywords | 経済理論 / 意思決定 / 神経経済学 / 行動経済学 / 実験経済学 |
Research Abstract |
本研究の目的は「行動経済学」「神経経済学」、さらに「金融統計学」といった、金融理論を取り巻く3つの実証研究分野で得られた知見を用いて、合理的意思決定モデルのオルタナティブとなりうる、実証的基礎を持った意思決定モデルの構築に貢献することである。 昨年度は、「行動経済学」「神経経済学」の観点から意思決定モデルの精緻化をはかった。特に「個人差」と「レジームスイッチ」を意思決定モデルに取り込むための分析フレーム(確率的パターン認識モデル)を開発し、実験システムを完成させ、小規模な予備実験を行った。しかしながら、本格的な実験には至らず、実験システムや分析フレームの有効性を確認するに留まった。 本年度は、比較的大規模な実験を集中的に実施した。これらの実験では、「行動経済学」「神経経済学」の観点から、人間の行動結果のみではなく、生体情報も同時に測定した。具体的には、120人規模のアンケートベースの実験と、生体情報も同時に測定する40人規模の実験、さらに追加実験の合計3回の実験を行ってデータを収集した。生体情報の測定デバイスとしてはmulti-modality化したものを用いた(既存のシステムを意思決定の記述に何らかの有効性を持つことが期待される測定デバイスに拡張する)。 これらの実験の結果については、現時点ではまだ十分に分析できていないものの、その結果の一部を学会にて発表した。そこでは、個人差をモデルの中に取り込み、さらに各個人のリスク予想や意思決定そのものがどのような情報に影響を受けるかが主として分析されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、平成24年度に実験分析フレームを完成させ、大規模な実験を行い、本年度に意思決定モデルを一通り完成させる予定であった。しかしながら、平成24年度に、実験システムの開発に予想以上の時間がかかったことと、研究者自身が長期の在外研究で十分な時間が取れなかったことにより、大規模な実験は行えなかった。本年度、実験は実行したが、平成24年度の遅れを取り戻せない状況である。 平成24年度において実験システム開発に遅延が発生した理由は、昨年度の実績報告書に記載したとおりである。以下再記する。 本研究おいて予想される困難な点として、意思決定モデルの逐次学習と、生体情報測定デバイスのマルチモーダル化に伴う、機械学習量(計算量)増大がある。今回、予想以上の手間が必要となったのは、このうち生体情報測定デバイスのマルチモーダル化に伴う処理の部分である。 我々は、神経経済学によって得られた知見を意思決定モデルの精緻化に積極的に利用するために、従来の実験システムを、fNIRS、EEG、SCR、BVP等の、意思決定の記述に何らかの有効性を持つことが期待される測定デバイスに拡張し、意思決定モデルへの生体情報導入の徹底を図った。これまでこのようなマルチモーダルなシステムを用いた実験は行っていたが、その実験システムを新規の課題に載せようとしたとき、データの欠損や逐次処理でのトラブルが生じることになった。この問題に対処するために、実験システムと分析システムの切り離しを行い。実験システムを大量なデータの処理に耐えられるように一から再制作した。
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Strategy for Future Research Activity |
[平成26年度]は、平成25年度までに行った意思決定モデルの精緻化を完成させるとともに、それをベースとしつつ、「金融統計学」の知見を用いて、市場均衡との関係から意思決定モデルの妥当性を検討する。もしある意思決定モデルが市場参加者の行動様式を的確に記述しているならば、当然その集合である市場の振る舞いとも整合性を持つはずである。ここでは、市場において観測される収益率に関する統計的性質(FSF)と意思決定モデルとの整合性を検討する。たとえば、収益率分散の強い正の自己相関や収益率分布の大尖度、取引量と収益率分散の交差相関、取引量や収益率分散と尖度の関係といった観測された事実が、我々の意思決定モデルを組み込んだ均衡モデルから生成される価格列や取引量列において再現可能かどうかを分析する。 また、意思決定モデルそのものについても、これまでの分析結果を加味しつつ、引き続き分析モデルの改良や追加実験をできる限り行い精緻化を追求する。現時点において、開発した意思決定モデルの精度が良好であると予想している。より精度の高い測定機材(fMRI)を用いた追加実験を行い、測定デバイスのマルチモーダル化を進めるとともに、当該モデルの更なる改良を目指したい。 更に、これらの結果を公表するのも本年度の重要な課題となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上述(現在までの達成と理由)のように、現時点において計画がやや遅れている。当初の計画では、平成24年度に実験分析フレームを完成させ、大規模な実験を行い、本年度に意思決定モデルを一通り完成、発表活動を行う予定であったが、平成24年度に、実験システムの開発に予想以上の時間がかかったことと、研究者自身が長期の在外研究で十分な時間が取れなかったことにより、意思決定モデルの解析が未だ完了できていない。それに伴い、主に発表用に計上した金額が未使用となっている。 また、実験費用についても、当初の予想よりも少ない金額になっている。これは来年度における追加実験で使用される予定である。 本年度に計上した費用は、主として、より精度の高い測定デバイスによる追加実験のための費用と論文発表費用である。具体的には、AISTにおける先端機器共用イノベーションプラットフォームにおいて磁気共鳴画像装置(MRI装置)をレンタルするための費用を1,100千円、実験で必要となる費用(実験補助者への謝金、実験被験者への謝金、データ処理業務に対する謝金)および論文制作にかかわる費用(主として英文校閲費用)を600千円計上している。 物品費および旅費に関しては当初の予定通りである。すなわち、例年、実験システムに使用しているパソコンや測定機器の部品が年に1、2台故障するため、その維持のための費用を毎年200 千円(100 千円×2 台)だけ消耗品費として計上した。また、学会出席のための国内旅費を毎年150 千円、学会出席のための外国旅費として毎年度150 千円計上している。
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