2012 Fiscal Year Research-status Report
2008SNAの検討――生産の境界・資本の境界・市場の境界
Project/Area Number |
24530233
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
作間 逸雄 専修大学, 経済学部, 教授 (50114947)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
牧野 好洋 静岡産業大学, 経営学部, 准教授 (00288424)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 08SNA / サテライト勘定 / SAM / CGEモデル / SEEA-Water / 本社 / 持株会社 / 貴重品 |
Research Abstract |
研究代表者である作間は、本プロジェクトの研究目的に即し、08SNAの翻訳作業を行ないながら、含まれる複数の課題について概念的検討を行なった。中でも、平成24年度に取り組んだのは、1)本社・持株会社の産業分類における取り扱いおよび2)「貴重品」概念の検討、等である。それらについて、国内外における学会発表を行ない、学術誌へ論文を投稿する準備段階にある。1)については、08SNAおよび国際標準産業分類(ISIC)最新版の新機軸である、本社活動の把握とその独特な持株会社への視角を日本標準産業分類(JSIC)と比較した。2)については、93SNAおよび08SNAで第3の資本(形成)概念として導入された「貴重品」概念が、近代経済学における資本概念を損なうものであり、文化財保護の観点からも容認しがたいものであることを示した。 研究分担者である牧野は、研究の目的に即し、08SNAおよびサテライト勘定の課題を「所得分布」「環境」「地域」の3点から検討した。「所得分布」については、所得格差の拡大・縮小を一般均衡体系で論じることができるよう、産業、労働、家計を多部門化した社会会計行列(SAM)および計算可能な一般均衡(CGE)モデルを構築した。その結果、IT化、グローバル化の推進により一国経済を成長させたとき、他の事情が一定であれば、所得格差は拡大することなどを明らかにした。「環境」については内閣府経済社会総合研究所の研究会に参加するとともに、SEEA-Waterの構造を整理、それをひとつの勘定行列上に統合して示す勘定行列を構築した。その結果、SNA中枢体系が示す経済循環とサテライト勘定が捉える水の循環、汚染物質の排出・処理を一表上に、より詳細に捉えられるようになった。「地域」については製造業が盛んな静岡県を例にとり、地域ごとのSNA統計を整備できるよう、県内各市町のクラスター分析を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は08SNAの諸課題を勘定体系の観点から、およびモデル構築の観点から検討することである。平成24年度の研究実施計画にあるように、今年度は問題の確認・発見(再発見)および中間的研究成果の公表を行なった。 研究代表者・作間が、内閣府の依頼により、08SNA翻訳作業に携わったことは、問題の確認および(再)発見に大いに資するものであった。そうした問題点のなかで、本社・持株会社の産業分類における取り扱いと「貴重品」概念について、本国内外における学会発表として行なっている。それは、中間的研究成果の公表にあたると考えられる。 研究分担者・牧野は、08SNAおよびサテライト勘定を「所得分布」「環境」「地域」の3点から検討した。今日の日本経済の課題、すなわち所得格差、持続可能な経済成長、地域経済活性化をそれぞれ考察するためには、経済循環を体系的に捉える08SNAに所得分布の概念を導入、さらにそのモデル化を図ること、またSNA中枢体系と環境分野のサテライト情報をひとつの勘定行列として示すこと、地域の特性を把握した上で県民経済計算の発展可能性を検討することが必要と考えたからである。 研究代表者・作間をはじめ多くの研究者・研究機関の協力を得て、それぞれについて一定の成果を上げることができた。所得分布についてはSAMをベースとしたCGEモデルを構築、いくつかのシミュレーションを行い、SNAを基盤とする一般均衡体系のなかで所得格差を論じることの必要性を示した。環境分野についてはSEEA-Waterの構造を整理し独自の勘定行列を構築、経済循環と水の循環の関連性などを体系的に把握できるようにした。地域については製造業の構成に基づき静岡県内の各市町を分類、市町の特性にあわせ県民経済計算をブレイクダウンするための基礎研究とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、当初の研究実施計画にあるように、平成24年度の研究成果を基礎とし、その発展を図る。具体的には以下の通りである。 研究代表者・作間は、08SNAの翻訳作業(の完了)によって得た諸所見を整理し、中間的成果として学会発表する予定である。また、含まれる論点あるいは論争点について研究を進展させる。今年度に重点を置くのは、1)FISIM(間接的に計測される金融仲介サービス)、前年度からの継続として2)貴重品概念、および3)暖簾である。1)については、シーニョレッジの会計という観点を取り入れてみたい。2)については、ケインズ『一般理論』第17章にある貨幣の特性を国民経済計算における金融資産概念と関連づけてみようと思う。3)については、企業会計上の概念である暖簾と国民経済計算の枠組みとの整合性を問題としたい。 研究分担者・牧野は、第一に、<生産の境界><市場の境界>という観点から、無償労働を含むCGEモデルの構築を行う予定である。周知のように、例えば「育児」は主婦が無償労働によりそれを行えば、慣行上の生産の境界の外に置かれ、市場サービスがそれを賄えば生産の境界の中に置かれる。しかし、前者と後者の組み合わせは一定ではなく、相対価格(無償労働の機会費用と市場サービスの価格)により変化するように思われる。牧野らが以前に構築した無償労働CGEモデルを、内閣府経済社会総合研究所作成の無償労働サテライト勘定と統合し、生産の境界等を考慮したSNAベースの経済分析に取り組む。 第二に、SEEA-Waterに基づき独自に構築した「水に関する環境・経済統合勘定行列」の作成に取り組む。平成24年度はその構造を作り上げたものの、統計の整備に至ることができなかった。国民経済計算や水に関する環境・経済統合勘定の推計結果を駆使し、勘定行列を作成、経済循環の観点から経済活動と水の相互依存性を分析する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究初年度であり、必要最低限の支出に止めたため、残余額が生じたが、25年度にSNAをモデル構築のデータソースとしてみるという研究目的・研究計画の線に沿って、研究代表者と研究分担者とが共通のソフトウェアを所有する必要がある。そのための資金の一部として次年度使用額を使用する予定である。
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Research Products
(8 results)