2013 Fiscal Year Research-status Report
2008SNAの検討――生産の境界・資本の境界・市場の境界
Project/Area Number |
24530233
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
作間 逸雄 専修大学, 経済学部, 教授 (50114947)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
牧野 好洋 静岡産業大学, 経営学部, 准教授 (00288424)
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Keywords | 国民経済計算 / 08SNA / 研究開発 / サテライト勘定 / SAM / CGEモデル / SEEAセントラルフレームワーク / 暖簾 |
Research Abstract |
研究代表者である作間は、本プロジェクトの研究目的に即し、08SNAの翻訳作業を完了し、08SNAの諸特徴を概観する学会発表(経済統計学会)を行なうとともに、学会機関誌に寄稿した。研究開発を資本形成として取り扱う新規定に付随する諸問題については2014年度の日本経済学会春季大会で報告する予定である。 また、国民経済計算データをモデル分析へのインプット・データとして利用する際に不可欠な実質化操作に、データの特性に対する無理解があることを指摘し、そのことが政策形成に対してもつ意味合いを統計関連学会連合大会で発表した。 さらに、作間は、暖簾の取り扱いに関する研究を行なっている。暖簾は企業会計上の概念であるとともに、93SNA以降、国民経済計算にも取り入れられている。暖簾は事実上、負の正味資産(negative net worth)に過ぎないことから、その必要性には疑問がある。研究の進化を図りつつ、本年の国際所得国富学会(IARIW)で発表する予定である。 研究分担者である牧野は、研究の目的に即し、08SNAおよびサテライト勘定の課題を「無償労働」「環境」「地域」の3点から検討した。「無償労働」については、牧野のこれまでの研究を基礎に、無償労働による家計生産物の生産、家計生産物と市場生産物の代替性を記述したSAMおよびCGEモデルを発展させ、介護量の増加や家事に関する無償労働生産性の上昇が日本経済にもたらすマクロ・インパクトを考察、論文として発表した。「環境」については内閣府経済社会総合研究所の研究会に参加するとともに、SNAサテライト勘定のひとつであるSEEAセントラルフレームワークの概要、それを構成する各勘定表の内容と関連、留意点を考察した。「地域」については、前年度に引き続き、製造業が盛んな静岡県を例にとり、地域ごとのSNA統計を整備できるよう、県内各市町のクラスター分析を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトは、08SNAの諸課題を概念上、実施上、モデルへの応用といった諸側面から、多面的に検討することを課題としている。研究代表者・作間は、SNAの勘定体系の観点から、生産の境界、資本の境界にかかわる概念的検討を行ない、研究実績の項にあるように、一定の成果をあげていると考えられる。 研究分担者・牧野は、08SNAをそのサテライト勘定の側面およびそのモデルへの応用という側面から検討している。研究実績の項にあるような「無償労働」「環境」の観点は、生産の境界、市場の境界に深く関わる。「地域」の観点は、そうした境界問題とも関わるが、08SNAの地域勘定の実施可能性や応用可能性の研究でもある。今日の日本経済の課題、すなわち高齢化と労働力人口の減少、持続可能な経済成長、地域経済活性化をそれぞれ考察するためには、経済循環を体系的に捉える08SNAを無償労働の分野に拡張し、それを含む形でデータを整備、モデルを構築すること、また環境分野のSNAサテライト勘定を整備すること、地域の特性を把握した上で県民経済計算の発展可能性を検討することが不可欠である。 牧野は、研究代表者・作間をはじめ多くの研究者・研究機関の協力を得て、それぞれについて一定の成果を上げることができた。無償労働についてはSAMをベースとしたCGEモデルにより、いくつかのシミュレーションを行い、SNAを基盤とする一般均衡体系のなかで、介護量の増加や家事に関する無償労働生産性の上昇が日本経済にもたらす影響を考察した。環境分野については国連統計委員会が2012年、環境経済勘定に関する初の国際統計基準として採択したSEEAセントラルフレームワークの構造を研究した。地域については前年度に引き続き、製造業の構成に基づき静岡県内の各市町を分類、市町の特性にあわせ県民経済計算をブレイクダウンするための基礎研究とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、本研究企画の最終年度にあたる。研究代表者・作間は、今夏、オランダ・ロッテルダムで08SNAの概念面・実施面の問題点のひとつである暖簾についての研究成果を発表する予定である。昨年度にひきつづき、企業会計上の暖簾の取り扱いをめぐる論点を精査すること、企業会計を専門とする研究者と意見交換をするなど、論文完成のために年度はじめの3ヶ月をあてる。その後は、このプロジェクトに伴い行なった研究、さらに過去の関連研究を論文にとりまとめる作業を行ないながら、牧野の担当するCGEモデルの作成を支援する。 研究分担者・牧野は、第一に、CGEモデルによる購買力平価の測定に取り組む。購買力平価の測定は、国民経済計算に含まれる指数体系の研究として位置づけられると同時に、物価水準の異なる地域(各国でもよい)の市場をどのように統一的枠組みの中に連結してゆくかという地域分野の課題でもある。先行研究によれば、国際比較でよく用いられ、地域比較にも適用可能であるGK法の世界価格はCobb-Douglas型効用関数をそれぞれ持つ複数の家計から成る純粋交換経済における均衡価格に等しい。今年度は、エッジワースのボックスダイアグラムにそれを示すこと、効用関数を他に変更した場合の世界価格、PPPを算出すること、いくつかの実証分析に取り組むことを課題とする。 第二に、環境分野において、SEEA-Waterに基づきNAMWA(National Accounting Matrix including Water Accounts)を作成、分析に取り組む。平成24年度にその構造を作り上げたものの、平成25年度は別のアプローチを採ったため、統計の整備・分析に至っていない。国民経済計算や産業連関表、水に関する環境・経済統合勘定の推計結果を駆使し、勘定行列を作成、経済循環の観点から経済活動と水の相互依存性を分析する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の進行状況を踏まえ、旅費の一部(海外の研究者との意見交換などのためのもの)を、次年度に先送りし、最終年度に行なう方が有効であると考えたことによる。 本プロジェクトの最終年度である研究成果の発表のために、研究代表者である作間がオランダ・ロッテルダムで開催される国際所得国富学会(IARIW)に参加することは当初からの計画に含まれている。さらに、国民経済計算データを用いたCGEモデルの構築(購買力平価の測定を含む)という研究課題に関し、海外の研究者との意見交換を行なうことに使用する予定である。前年度、前々年度と同様な研究会活動をも実施することを踏まえながら、1名ないし2名がオーストラリアに渡航することを計画している。
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Research Products
(9 results)