2013 Fiscal Year Research-status Report
発展途上国における貧困削減と再生可能資源保全の両立可能性に関する動学分析
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24530241
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大東 一郎 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (30245625)
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Keywords | 再生可能資源 / 貧困削減 / 発展途上国 / ハリス・トダロモデル / 経済動学 |
Research Abstract |
発展途上国における「貧困削減と環境保全の両立可能性」を探るため、開発経済学で標準的とされてきた農村・都市の二重経済モデルの農村地域に、国際貿易論・環境経済学で注目されているBrander and Taylor (1997)によるオープンアクセス下の再生可能資源動学を取り入れて、農村での再生可能資源の動学と都市失業率の変動とを統一的に分析する。 1.モデル分析:既存研究が静学モデルで定常均衡のみを分析するにとどまっていたことに鑑みると、モデルI(再生可能資源ストック量の調整時間が農村都市間人口移動の時間に比べてかなり長いケース)より、モデルII(再生可能資源ストック量の調整と農村都市間人口移動の時間が大きくは異ならないケース)での分析の方が、定常均衡に到達するまでの移行動学経路の性質を詳しく解明できる点で、新しい内容を多く含むことをより具体的に認識するに至った。 そこでモデルIIについて、オープンアクセス下の再生可能資源が農村での生産に投入されるケースを考え、移行動学経路上では、再生可能資源ストック量や都市失業率が循環的な動きを示し、オーバーシュートやアンダーシュートを繰り返して定常均衡値に収束することを明らかにした。そして、都市失業を減少させるための工業での賃金補助金が、都市失業率を低下させるだけでなく、農村の再生可能資源ストックの定常均衡値を増大させることを導いた。これは、貧困削減と資源管理の両立可能性を示すものである。また、労働の完全雇用を達成するための農村の賃金補助金率(=工業での賃金補助金率)が再生可能資源ストック量にいかに依存するかを明らかにした。 2.文献調査:近年国際学界でも増加している再生可能資源の所有制度と国際貿易との関係を論じた研究についても文献調査を開始している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オープンアクセス下の再生可能資源ストックが農村生産に投入されるモデルIIについて考察・分析を進めることはできている。しかし、再生可能資源の所有権制度の違いを取り入れた分析に進むためには、既存文献をさらに読解して理解を深める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
1.モデル分析:再生可能資源がオープンアクセスの下にあるケースについて、都市失業の解消と再生可能資源の利用との関係を分析するアイディアをさらに練りつつ論文を作成する。私的所有制やChichilnisky(1994)のような共有制ケースについて、分析を進展させることを試みる。それを国内外の学会、ワークショップ、セミナー等で報告しコメントを得て改訂する。 2.文献調査:モデル構築作業と並行して、再生可能資源の所有制度、またそれと国際貿易との関係についてより詳しく文献調査を行い、オープンアクセス、私的所有制、共有制のモデル分析とそれらの相違についての理解を深める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
環境資源経済学の専門知識の提供者である樽井礼准教授(ハワイ大学経済学部)が日本滞在のため海外出張旅費が不要となった。また、論文を作成して発表することより分析内容を深化させることに時間を費やした方が有益であると判断し、その他の出張旅費の使用を延期することができた。 ハワイ大学に戻る樽井礼准教授との議論を継続するため、また国内および海外の学会等での研究報告や情報収集のために、当該助成金を使用する必要がある。
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