2012 Fiscal Year Research-status Report
企業活動のグローバル化は非正規雇用の増加に寄与するか
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24530273
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
市田 敏啓 早稲田大学, 商学学術院, 准教授 (80398932)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 非正規雇用 / 人的資本投資 / 解雇コスト |
Research Abstract |
本研究は企業活動のグローバリゼーション化が日本企業の非正規雇用の増加にどのようなメカニズムで関わっているのかを、理論モデルと計量経済モデルの分析で明らかにしていくことを目的とする。具体的には、企業がなぜ正規雇用と非正規雇用の従事者を混ぜて採用するかを、労働者の解雇コストと企業の売り上げの不確実性という観点と、企業における人的資本投資という観点からのトレードオフを用いて説明したい。特に、どのような企業特性が非正規の雇用を増やすのか、たとえば、企業の輸出が増えると非正規雇用比率を上げるのか、それとも下げるのかなどの分析を理論モデルとデータの実証とで検証していきたい。 本研究は長期的には理論モデルの構築と企業の個表データを用いた実証分析の両方を行いたいと考えている。とくに、研究期間内では研究代表者一人で行える範囲で、既存文献の整理とまとめ、そして、理論モデルの構築部分を行いたい。現在、既存文献のOno-Sullivan 2010によると、産業の生産量のボラティリティ(変動の激しさの度合い)が非正規雇用の増加を促しているらしいことは分かっている。通常、国内売り上げと比べて輸出売り上げのほうがボラティリティの高いことはよく知られている事実である。そうすると、輸出企業のほうが売り上げの変動が大きくなるはずなので、非正規雇用比率が高くなることが予想される。しかしながら、応募者が慶応大学の松浦氏と行ったデータ分析によると、実際のデータでは輸出比率と非正規雇用比率とのあいだに正の相関は見られず、逆相関が見られることが判明している。(市田・松浦2010)今回の研究期間内にはなぜ、輸出比率と非正規雇用比率の間で逆相関があるのかを説明できるような理論モデルを構築することが第一の目標である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
人的資本投資に関する勉強と、関連する論文の執筆に思わぬ時間が取られており、雇用コストを中心とした非正規雇用の発生メカニズムを分析することが24年度ではできないでいた。 その反面で、人的資本投資に関する研究のほうは着実に進展して、単著の論文Nature versus Nurture: Reversal of Individual Comparative Advantages and Human Capital Investment under Riskを各学会などで発表し、さまざまなコメントをもらうことができた。本年度の前半では、この論文を学会誌に投稿することを目的にしている。 雇用コストを明示的に理論モデルに取り入れた非正規雇用の発生メカニズムと企業のグローバル化との関連については、24年度に新規に発行された論文なども取り入れながら、さらに勉強を進めていきたい。 最終的には人的資本モデルと雇用コストの両方を取り入れて、輸出比率と非正規雇用比率の間でなぜ逆相関があるのかを説明できるような理論モデルを構築することが最終目標である。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、労働経済学の分野での非正規雇用に関連する文献・書籍を購入し、読み込むことからはじめたい。そして、仮説に基づいて、まずは、解雇コストと貿易に関連するような文献、たとえば、Saint-Paul (1997)や Haaland and Wooton (2007)などをこれから読み込み、既存のモデリング方法と同じ方法をとるべきかそれとも異なる独自の方法で行くかを決定しなければならない。ボラティリティがテンポラリーな非正規雇用の比率を上げるだろうという結論はOno and Sullivan 2010にも描かれているので、そちらのモデル手法も参考にする必要がある。 次に、人的資本投資に関しては、古くはMincer 1958, Becker 1963などの古典的労働経済学の文献と、貿易と人的資本を扱ったFindlay and Kierzkowski 1983も参考にしたい。そして、人的資本と正規雇用(正社員)との関連では中馬・樋口1995を参考にする必要があるだろう。 24年度に新規に発行された論文なども積極的に取り入れて、文献のまとめと自分のオリジナルの理論モデルの構築を同時に進めていきたい。 その一方で現在保有する論文の学会での発表を積極的に行い、コメントなどを得ながら、学会誌への投稿を積極的に進めていく予定である。この時期には学会発表以外の期間は論文の読み込み活動と、執筆活動に当てるために25年度の予算では出張費の比率が高くなっている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
基本的には既存文献の読み込みとまとめ、それから自らの理論モデルの構築を行うので、必要な作業は昨年度に研究費で購入したパソコンとモニターやプリンターなどを用いて作業は行われる。 今年度に必要な経費としては、海外で開かれる国際学会において、現在保有する自分の書いた論文を発表しにいく旅費経費が最も必要な経費となる。旅費に関しては、研究打ち合わせと研究成果の発表の2つの理由で必要経費である。本研究の関連分野で活躍する多くの研究者は海外の大学に所属しており、それらの人々から研究上の指南を受けることは有益である。つぎに、研究成果の発表のための研究会や学会での発表であるが、日本国内の研究会や学会だけでなく、国際的な海外の学会で発表することも、短期的・長期的両方の観点から重要である。短期的には、国際雑誌に投稿した際のレフリー(審査員)となる可能性がある海外の研究者たちの前で自分たちの研究内容を発表しフィードバックを受けることは国際雑誌に論文が掲載される可能性を上昇させる。長期的には、海外の学会では海外の研究者と知り合いになる機会が多く、そこから共同研究の話が生まれることが多いためである
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Research Products
(7 results)