2013 Fiscal Year Research-status Report
グローバル時代のインドネシアとフィリピンにおける地方分権と地域間格差の分析
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24530274
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Research Institution | International University of Japan |
Principal Investigator |
秋田 隆裕 国際大学, 国際関係学研究科, 教授 (50175791)
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Keywords | 地域間所得格差 / 家計間消費格差 / 都市化 / 貧困ダイナミックス / フィリピン / インドネシア |
Research Abstract |
フィリピンとインドネシアにおける所得格差と貧困に関する以下の2本の論文をインドネシアで開催された国際会議で発表しWorking Paperとして公表した。1. Akita & Pagulayan, ‘Structural Changes and Interregional Income Inequality in the Philippines, 1975-2009’ : 1975年から2009年までの地域別・産業別地域所得データを用いてbi-dimensional decomposition method により、フィリピンの産業構造変化と地域間格差の長期的な分析を行った。マニラ首都圏を含む地域データによると、ルソン島内格差はフィリピン全体の地域間格差の多くを説明しており、したがってフィリピン全体の地域間格差はルソン島内格差に連動している。グローバリゼーションが進む中でマニラ首都圏の経済発展速度が弱まることは当面ないが、フィリピン全体の地域間格差を減少させるためには、マニラ首都圏とルソン島内その他地域との格差を減少させることが必要である。2. Sagala, Akita & Yusuf, ‘Urbanization and Expenditure Inequality in Indonesia’:インドネシアにおける地方分権化政策導入以降の家計調査データによって構築された地域パネルデータを用いて、都市化と家計消費支出格差に関する逆U字仮設の検証を行った。この分析によると、格差の尺度としてGini係数とTheil尺度のどちらを用いても逆U字仮設が成立することが分かった。推定値を用いて消費支出格差がピークに達する都市化率を計算すると50%弱で、これは2010年時点の約50%を若干下回っている。したがって、さらなる都市化は消費支出格差を下げる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、グローバル時代における地方分権化政策と地域間あるいは都市・農村間格差の分析の第2段階として、フィリピンについては1991年の地方分権化政策導入を含む1975年から2009年までの地域別・産業別地域所得データを用いて、産業構造変化と地域間所得格差の長期的な分析を行った。インドネシアについては、地方分権化政策導入以降の家計調査データによって構築された地域パネルデータ(33州10年間のパネルデータ)を用いて、都市化と家計消費支出格差に関するKuznets仮説の検証を行った。フィリピンの論文は、Review of Urban and Regional Development Studiesの2014年7月号に掲載される予定である。また、インドネシアの論文は、Letters in Spatial and Resource Sciencesの2014年6月号に掲載される予定である。平成25年度は、これらの研究に加えて、1996年から2011年までの家計調査データによって構築された地域パネルデータを用いて、インドネシアにおける教育の拡充と消費支出格差に関するKuznets仮説の検証を行った。また、2008年から2010年までの家計レベルのパネル社会調査データ(panel Susenas)を用いて、インドネシアにおける5つの地域における貧困ダイナミックスの分析も行った。これらの研究成果についても、インドネシアのバンドンで開催された国際会議で発表しWorking Paperとして公表している。なお、24年度に実施された2008年度の家計調査データを用いた都市・農村と教育に関する消費支出格差の分析結果は、2013年11月のLetters in Spatial and Resource Sciencesに掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度も構築したデータ・ベースを用いて研究目的に沿った分析を行う。また、収集した地方分権化政策に関する資料と学術的な文献により、インドネシアとフィリピンにおける地方分権化政策の変遷を概観し論文としてまとめる。また、地方分権化を進めている日本と他ASEAN諸国における地方分権化の歴史的な背景と特色について調査し、研究対象2か国との比較分析も行う。具体的には、平成25年度に実施したフィリピンにおける産業構造変化と地域間所得格差の分析と同様の分析をインドネシアでも行う。ここでは、平成25年度に購入した2004年以降の州別・産業別地域所得データを用いて分析を行い、Asian Economic Journalで発表した1983-2004年の分析結果との比較分析を行う。また、家計調査データによって構築された2000年以降の地域パネルデータ(33州)を用いて、インドネシアにおける地方分権化と貧困および所得格差の計量分析を行う。さらに、1990年代以降の県・市別地域所得データを用いて、Theil尺度の2段階要因分解手法による地域間格差の分析も行う。フィリピンについては、1996、2000、2006、2009年の家計調査データ(Family Income & Expenditure Survey (FIES) data)を用いて、フィリピンにおける家計消費支出格差要因が農村と都市でどのように異なるかをさまざまな要因分解手法を用いて分析する。ここでは、家計調査データを用いたインドネシアの支出格差要因分析と同様、Elbers, et al. (2008)が提唱している新しいグループ間格差指標とBlinder (1973)とOaxaca (1973)が開発した手法による要因分析を行う。研究成果は、国内外の学会や大学のセミナーなどで発表しWorking Paperなどの形で公表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年10月に予定されていた国内での学会出張が家庭の事情によりキャンセルになり、その部分の出張費がかからなくなったため。 26年度も、資料・データ収集と研究成果発表のための国内外出張が研究費支出の中で大きな比重を占めている。また、引き続きインドネシアとフィリピンにおける社会経済家計調査データと地域所得データの収集も行う予定であり、データ購入のための予算も計上する。インドネシアに関しては、2012年と2013年の家計調査データ、2000年以降の労働調査データ、地域間産業連関表などを、一方、フィリピンについては、2009年度家計所得消費調査データ(FIES)の購入を予定している。国内外の出張については、インドネシアとフィリピンの大学での研究成果発表と日本地域学会と応用地域学会2014年年次大会での研究成果発表を予定している。また、新バージョンの統計処理ソフト(STATA)の購入も考えている。それと同時に、大規模データ処理と新バージョンの統計処理ソフトのための高性能なパーソナル・コンピュータの購入も予定している。
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