2012 Fiscal Year Research-status Report
配偶者控除・社会保障制度が日本の女性労働に及ぼす影響の構造推定
Project/Area Number |
24530275
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | International University of Japan |
Principal Investigator |
高橋 新吾 国際大学, 国際関係学研究科, 准教授 (70445899)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 労働経済学 / 構造推定 / 配偶者控除 / 社会保障制度 |
Research Abstract |
本年度は、2004年度の配偶者控除上乗せ部分の廃止が女性労働に及ぼした影響に関する研究と、日本女性の労働供給における労働時間制約の重要性に関する研究を進めた。2004年に配偶者控除の上乗せ部分が廃止され、妻の収入が103万円以下の部分に於いて家計予算制約線の下落が起こった。よって、2004年以前に収入が103万円以上であった女性をコントロールグループとする事によって、配偶者控除制度が労働供給に及ぼす影響を推定できる。我々は家計経済研究所の消費生活に関するパネル調査を用いて推定を行った。個人フィックスエフェクトを入れないで推定した場合、上乗せ部分の廃止が約10%の労働供給上昇をもたらしたとの結果になったが、個人フィックスエフェクトを入れるとこの影響がほぼゼロになる。配偶者控除制度があまり女性労働に大きく影響を及ぼしていないという結果は、構造推定を用いた私の研究の結果と整合的である。次に、労働時間制約に関する研究を行った。とえば、週40時間のフルタイム職か、週25時間のパートタイム職しか選択がない事もあるであろう。よって、時間をフレキシブルに決められない事が103万円の壁の原因の一つかもしれない。例えば時給800円で週25時間働くと年収は大よそ100万円になる。労働時間制約を明示的にモデル化した構造推定の手法はすでに開発されている。しかし本年は、構造推定を使う前段階として、労働時間制約が実際に女性の労働供給に影響を及ぼしているのかというトピックに関して研究を行った。もし労働時間制約が女性労働に影響を及ぼしているとすれば、労働時間の年次の変化は、仕事を変えた女性の方が変えていない女性より大きくなるはずである。我々は消費生活に関するパネル調査を用いて、この仮説におおむね整合的な結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年は配偶者控除制度が女性労働供給に及ぼす影響と、労働時間制約に関する研究を同時に進めた。配偶者控除制度の研究に関してはデータの整理が順調に進んだ。コントロールグループとトリートメントグループの作成に関しては、2000年から2006年までのデータを使い、2000年から2004年まで連続で収入が103万円を超している人をコントロールグループとした。また推定対象は2000年から2006年まで継続して結婚している人を対象とした。本研究では時間給のデータは必要なかったが、年収を年間労働時間を割る事によって時間給を出し、時間給が極端に低いオブザベーションは推定から外すと言ったデータ整理を行った。これらの作業は研究協力者及びリサーチアシスタントを効率的に使う事により行った。クリーンなデータを使う事いより、信頼性の高い推定結果が得られたと考えている。労働時間制約に関する研究に関しては、データを、仕事を変えた事にある人と変えた事にない人に分ける必要があった。仕事の変更に関しては、間髪をいれずに仕事を変更する人と、いったん仕事を辞めて少しの休職期間を置いてから再度仕事を始める人など、様々なパターンがあった。これを整理するのに若干の時間がかかったが、リサーチアシスタントを効率よく使う事により推定に必要な部分に関しては整理する事が出来た。本年度は、転職の際、仕事を間髪いれず変える人のみを分析の対象とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、2004年の配偶者控除上乗せ廃止が女性労働供給に及ぼした影響に関しての推定を行い、個人固定効果を入れない推定に於いては10%の効果が見られたが個人固定効果を入れた場合効果完全に消えた。配偶者控除制度が女性労働供給に及ぼす影響が小さいという結果は、私が構造推定測定で得た結果とほぼ同じである。よって次年度は、2004年配偶者控除制度の上乗せ部分廃止の影響と、構造推定による推定結果を一セットにして配偶者控除が女性労働に及ぼす影響に関する論文を一本執筆する。論文が完成した後は、精力的にワークショップ及び学会での報告を行う。次に、労働時間制約に関する研究をさらに進める。昨年度は仕事を間髪いれずに変更した女性のみを推定に加えていたが、仕事を一度休職してから再度働き出した人なども入れて頑健性のチェックをする必要がある。そのため、転職の情報をさらに細かく分類する必要がある。このデータ整理はある程度手作業で行わなければならない部分が出てくるので、リサーチアシスタントを使って効果的に行っていく。研究協力者と作業を適宜分担し仕事を効率よく進める為定期的にミーティングを行う。結果がでそろった時点で論文の作成に入る。また、労働時間制約を明示的に取り入れたモデルの推定に着手する。たとえば、男性の労働時間分布における週40時間付近のスパイクは,通常の構造推定では再現できない。Dickens and Lundberg(1993)(Int Eco Rev)は労働時間制約をモデル化する事によりこれを再現した。103万円の壁は、事実上の税率が10%上昇する事によって生じているが、10%の賃金変化で著しいクラスターを再現することは困難である。よって、労働時間制約が103万円の壁の原因となっているかを調べるため、Dickens and Lundberg の手法を用いて労働供給の推定に着手をする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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