2012 Fiscal Year Research-status Report
規制緩和によって促進された金融機関の競争が個人利用者に与える影響の分析
Project/Area Number |
24530278
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto Gakuen University |
Principal Investigator |
畔上 秀人 京都学園大学, 経済学部, 教授 (90306241)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 規制緩和 / 金融機関店舗 / 金融サービス / 個人年金保険 / 競争 |
Research Abstract |
平成24年度の主要な作業の一つは、本研究に関連する既存研究の整理と2000年代以降の金融機関店舗数及び金融サービス需給に関わる諸変数の地域ごとに区分されたデータベースの作成である。 日本よりも早く金融部門の規制緩和が進んでいる欧米諸国の事例については、その影響を分析した研究が数多く報告されているため、所属研究機関が備える文献検索データベースを活用して効率的に整理を行った。 本事業による助成を受ける以前に研究者が蓄積した成果を活用できるため、平成24年度に主に取り扱う対象は個人年金保険である。そこで、契約件数・金額に関するデータは、国内、外国生命保険会社、かんぽ生命、農業協同組合に分類して2001年から2010年までを都道府県レベルで整備した。個人年金保険について都道府県レベルで地域を細分化し、各地域での競争状況を分析した既存研究が存在しないため、保険会社の各都道府県内のシェアを求め、集中度を表すハーフィンダール指数を算出した。そして、業態ごとに銀行店舗数や集中度との関係を概観し、より高度な回帰分析を行うための準備作業を行った。 一方、金融機関店舗に関するデータは、都市銀行(メガバンク)、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫の6業態を主要分類として、2008年度末時点で地域を市区町村レベルにまで細分して整理した。その他、地域の人口や世帯数、可住地面積、高齢者人口比率、事業所数等、金融機関の店舗設置に関係するデータを入手し加工した。これらのデータを基に店舗設置関数を推定する作業と、一つの店舗が供給する金融サービスの量を指標化する作業を行った。前者は特定の都道府県においては既存研究で行われているが全国レベルでは実績がなく、後者は既存研究自体がほとんどないものである。 以上の研究実績の中で、まとまりをもって公表できるものに関しては、以下に示す学会報告等で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度までに、2008年度末時点の預金取扱金融機関店舗の分布と新規開設・廃止に関するデータの整理は完了していた。そこで、本研究はそのデータを活用し、個人年金保険販売の規制緩和から受ける影響の分析から開始した。すなわち、2002年10月に銀行等金融機関の店舗で個人年金保険の販売が許可されたことにより、その普及が加速的に進んだのか、またそれには地域による差があったのか、ということを検証した。一般的にはいわゆる銀行窓販が個人年金保険販売を大きく促進したとされているが、本研究では銀行店舗数との正の相関が強いのはむしろ生命保険販売であるという結論が得られた。ここまでの成果は国際学会において報告した。 続いて、保険者を国内生命保険会社、外国生命保険会社、かんぽ生命、農業協同組合に分類してそれぞれでクロスセクション・データ分析を行った。その結果、国内銀行店舗数は地域面積当たりの指標でも、地域人口当たりの指標でも、個人年金保険の新規契約金額に対して統計的に有意な影響を与えていることが確認できなかった。その原因を探求すると、地域内の国内銀行店舗数は地域の可住地面積と人口いずれに対しても正の相関をもつが、大都市圏においては人口に対する店舗数が少なくなる点が問題であるとわかった。そこで、新しい店舗数指標を考案して回帰分析を行ったところ、予想と整合する結果が得られた。具体的には、可住地面積当たりの店舗数の対数値と地域人口当たりの店舗数の対数値との積を指標とするものである。この指標を用いた既存研究はなく、本研究を進める中で初めて用いられたものである。これらの成果は所属している研究会が発行する機関誌に掲載した。 以上のように2000年代の規制緩和の一つとして、個人年金保険の窓口販売解禁に関する分析については、当初の計画以上に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に引き続いて、平成25年度も前半は個人年金保険に関する分析を行う。すなわち、2001年度から2010年度までの新規契約金額とそれに影響を与える経済活動変数、人口統計学的属性変数、競争度変数等を都道府県単位で集計してパネル・データ分析を行う。その後の計画は以下の通りである。 (1)データベースの拡充:作成したパネル・データに、預金取扱金融機関の従業員一人当たり業務純益や経費率といった経営効率性に関するデータ等を追加する。並行して、ゆうちょ銀行や農業協同組合等、複合事業体の店舗データも整備する。(2)統計的分析:(1)のデータベースを用いて、各年のクロスセクション・データ分析を行い、その結果を吟味してパネル・データ分析に用いるモデルの候補を複数構築し、分析する。また、2012年度に考案した新しい店舗数指標がここで行うパネル・データ分析以外でも説明力を持つか否かを検証する。(3)研究発表:この時点での結果は、生活経済学会、日本地域経済学会、アジア太平洋リスク保険学会(Asia Pacific Risk and Insurance Association)等で報告し、研究論文として発表する。(4)データの追加:金融機関として保険会社のデータも追加する。保険会社は預金取扱金融機関とは異なり、同次元での集計にはならないが、2000年代に銀行等の保険商品取り扱いが順次解禁されていったため、両者の関係を表すデータを追加する。具体的には、保険会社の支社、支店、代理店等の数や、販売チャネルと販売実績に関するデータである。また、地方銀行協会加盟行と第二地方銀行加盟行に対して、今後の店舗展開に関するアンケート調査を行う。詳しい調査項目は研究の進行と共に決定する。調査方法は郵送法による。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年7月にセント・ジョーンズ大学リスクマネジメント・保険学部(米国・ニューヨーク市)で開催される第17回アジア太平洋リスク保険学会年次大会において研究報告を申し込み、採択された。そのため、当初計画に基づいて、外国旅費として250千円を支出する。 また、国内での研究成果報告に対して国内旅費を150千円、外国語による報告書作成に係る校正料、郵送料に対して90千円、学術雑誌への投稿料として50千円を支出する。 研究図書・データ関連では、図書一式に対して152千円、有料データに対して63千円、加工データ保存媒体に20千円を支出する。 その他、研究遂行上必要となる印刷用紙等の消耗品に対して34千円使用する計画である。
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