2013 Fiscal Year Research-status Report
企業結合規制における合併シミュレーション分析の現実妥当性に関する研究
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24530289
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
泉田 成美 東北大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (50272505)
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Keywords | 企業結合規制 / 合併シミュレーション / 関連市場の画定 |
Research Abstract |
昨年度に引き続き合併シミュレーション分析に関する文献調査・欧米での訴訟資料調査を行うとともに、わが国における過去の合併事例に関して、合併シミュレーション分析の予測精度に関する検証を行った。具体的には、セメントと製鉄の合併事例に基づいて、国内市場を関連市場と仮定した場合の合併シミュレーション分析を行い、予想される価格変動と現実の価格変動を比較した。その結果、当該市場において合併シミュレーション分析を行うと、現実の価格変動よりも過大な価格上昇を推定してしまうことが示された。この結果は、グローバル化が進行している現時点では、セメント・製鉄産業において日本国内市場を単独の関連市場と考えることは誤った判断であり、そのような誤った判断に基づいて合併シミュレーション分析を行うと実際の価格の変化よりも非常に大きな価格の上昇を誤って予測することになり、誤った政策判断を導くことになることを示している。この結果は逆に、国内市場が寡占市場であるからといって、単純に寡占市場モデルを当てはめて分析を行うことが必ずしも正しくないことを示していると考えられる。 また、バター・マーガリン市場、ビール・アルコール飲料市場を取り上げて、差別化された寡占市場において、SSNIPテストによる関連市場の画定が可能であるかどうかについて、分析を行った。その結果、いずれの市場においても関連市場を画定することができなかった。すなわち、市場の境目を画定することができなかった。 合併シミュレーション分析は、関連市場が画定されており、需要の価格弾力性が既知であるときに合併後の価格上昇を計量経済学的に予想するモデルであるが、現実には、関連市場の画定が困難であったり、わが国の国内市場が単独の関連市場を構成していないと考えられるために、わが国における適用は限定的ではないかという印象を持った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度は、東北大学経済学部において、経済学科長および学生指導の責任者の職にあったために、管理運営の業務に追われ、研究時間を十分に確保することができなかった。そのため、論文の作成や研究成果の公表を行うことができなかった。以上の理由により、「やや遅れている」という自己評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
合併シミュレーション分析は、関連市場の範囲がすでに画定されており、需要の価格弾力性が既知である時に、寡占市場モデルを用いて合併による価格上昇の効果を推定する分析手法である。わが国における合併シミュレーションモデルの現実妥当性を検証することが本研究の目的であるが、当初予想に反して、これまでのところ市場画定分析が予想以上に困難であるとの結果を得ている。そのため、合併シミュレーション分析の現実妥当性は非常に低いという結論が導出される可能性があることを視野に入れつつ、どのような財において明確に市場画定ができるのか、引き続き検討していく予定である。それと同時に、わが国においては需要の価格弾力性に関する情報がほとんど存在しないため、需要システムの推定について、簡便で安定した推定方法が存在するのかについても検証していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究内容が当初予想していた方向に進まなかったため、平成24年度に予定していた海外調査を平成25年度に延期せざるを得なかったが、平成25年度の大学での管理運営業務が予想以上に多かったため、平成24年度分の海外調査しか行うことができず、平成25年度分の海外調査を次年度に延期せざるを得なかったため。 次年度使用額は、当初計画していた海外調査を次年度に延期することによって生じたものであり、延期した海外調査に必要な経費として平成26年度請求額と合わせて使用する予定である。
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