2012 Fiscal Year Research-status Report
ODA・FDIと人的資本形成の途上国におけるMDG改善効果の計量分析
Project/Area Number |
24530291
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
宇野 公子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80558106)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安藤 朝夫 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (80159524)
加藤 真紀 文部科学省科学技術政策研究所, その他部局等, 研究員 (80517590)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ミレニアム開発目標 / 経済成長分析 / 人的資本形成 / 空間計量分析 / 2国動学モデル / 応用一般均衡 |
Research Abstract |
本研究は,ASEAN地域のような,地理的にまとまった領域を対象にパネルデータを作成し,各国の開発援助対象分野や民間資金の流入状況等を考慮しつつ,国連ミレニアム開発目標(MDG)の改善に関する多国計量分析を行うことを第1の目的としている。 24年度はアジア・アフリカの開発途上国・移行経済国及びBRICs諸国に関する予備的データベースを作成し,MDGの第1目標である貧困率,第2目標である就学率に関連する計量分析を行い,その結果を東京外大の紀要誌に発表した。基本的なデータソースとしては,世界銀行のWDI,OECDの国際開発統計等が利用可能であり,これらを用いて多国パネルデータの作成を進めている。 同時に近年の所得関数や経済成長率の推定,人的資本形成とMDGを関連付けた文献を調査し,追加的に収集すべき変数の識別を進めている。またニューヨークの国連本部と,アフリカ全体を管轄するエチオピアの地域経済委員会(ECA)及び世界銀行,IMF等の現地出先機関に対するヒアリング調査を実施した。これにより現実の途上国開発に関する問題意識を共有し,また不足するデータソースへのアクセスを拡げることが可能になる。 本研究の第2の目的として拡張Solow型の2国経済成長モデルの開発があるが,24年度は簡単な空間CGEモデルの枠組みを用いて,空間価格均衡と交易係数の整合性と均衡解の存立要件を検討し,途中経過について国際学会で発表した。また本研究は経済成長における人的資本の役割を重視するが,研究者の国際流動と国際的な研究連携が学術研究の効率性に及ぼす影響に関する論文等を通じて,人的資本の国際移動に関する理解を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アジア太平洋地域18ヶ国,アフリカ29ヶ国を対象とする予備的データベースを作成し,貧困率に関するプーリング分析を分析を行った。データベースは1990年から2009年に至る20年間と35経済変数を含むが,欠損値が多いためパネル分析に繋げるためには追加データ等により欠損値を補間する必要がある。このため24年度は海外の経済関係の国際機関に現地調査を行い,担当職員との意見交換と資料収集に努めた。 9月のニューヨーク出張では,国連本部,DESA(経済社会局),UNDP(開発計画), UNFPA(人口基金)を訪問し,2015年のMDG最終年度に至る行動計画を確認し,25年度に実施されるMDG準備会合に本課題を連携させる方向で検討を進めている。また3月にはアジスアベバを訪問し,UNECA(アフリカ経済委員会)及びUNDP,世界銀行,IMFの現地事務所担当者にヒアリングを実施すると共に,バンコクにおいてJETRO,アジア経済研究所,AMEICC(日ASEAN経済産業協力委員会)の現地事務所と,メコン流域の開発計画に関する日本の関与と効果に関するヒアリングを行い,データ提供について協力を依頼した。 第2の目的である2国経済成長モデルに関しては基本的な定式化を終えており,予備的な部分シミュレーションを試みている。モデルは,世界は人口衰退期の先進国(N国)と拡張期の途上国(S国)の2国で閉じており,貿易とODA・FDIによる資金移動と移民を通じて相互作用を行う。労働者は未熟練・熟練に2分され,熟練労働者は教育投資を通じて育成されるが,熟練労働者は移民可能であるため,途上国の教育投資は先進国への流出リスクを伴う点点に特徴がある。
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Strategy for Future Research Activity |
開発途上国を対象とする多国計量分析に関しては,データ収集に努めると共に,ヒアリング調査を続けて地域固有の経済政策上の問題点を抽出する。また最終的なパネルデータに含まれる欠損値を評価し,妥当な欠損値処理の方法を決定すると共に,変数プールの内容を検討し,アジア太平洋地域、アフリカ地域に関するデータベースを完成させる。 実証分析では,左辺に1人当たり所得を用いることを基本とするが,所得増加率や経済成長率,貧困率等を左辺に置くモデルについても検討する。パネル分析においては,不完備データや固定・ランダム効果,ラグ変数の扱いを含む多方面の検討を行い,分析技術の向上を図る。対象地域は異なる発展段階の国を含み,ODAやFDIの有効性は国毎に異なると考えられる。発展の初期にはBHN(人間の基本ニーズ)に対するODAが重要だが,経済成長と共に重点は産業・交通基盤整備に移り,スキームも贈与から借款,更には民間部門によるFDIに移行する。そのような時間的推移を捉える上で,パネルは分析の自由度を確保する上で有用な手段となる。 2国経済成長モデルにおいて,N国の貿易黒字はODA・FDIとしてS国に還流するが,将来的にS国に投資した資金をN国が回収できれば,N国は人口減少期を持ち堪えることが可能になる。そのような持続可能解が存在するパラメータ領域を,パラメータの組合せに関する数値解析を通じて明らかにすることが主要な興味の対象となる。モデルに含まれる国別パラメータには,出生率・死亡率・減価償却率・資産分配率があり,共通パラメータとして利子率と主観的割引率がある。2国モデルの解き方に関する一番単純な想定は,世界政府が両国の将来効用の現在価値(NPV)の和を最大にする最適制御問題であるから,始めにこの枠組みを用いた数値解析を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年9月に世界銀行ワシントン本部,ニューヨーク国連本部,パリOECDに出張を予定する。主目的はパネルデータ作成のための資料収集であるが,今後の研究協力(合同専門家会議)を提案する等して,研究発展の道筋を造りたい。同時期にニューヨークで開催されるMDG関連の関係機関会議に出席し,MDGの達成状況や問題点に関する最新の情報を得る。また開発途上国(特にエチオピアとタイ)の国際機関で進行中の研究プロジェクトとの協力を図り,合同の研究発表の機会を得るために相当額の旅費を見込む。 また世界銀行WDI(World Development Indicators)を始めとするデータ収集,計算機環境の整備及び関連図書の購入に物品費を,パネルデータ整備のための実務的作業のために学生謝金を見込んでいる。
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