2012 Fiscal Year Research-status Report
経済発展におけるICTの進展が経済格差を生み出すプロセスの経済分析とその解明研究
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24530308
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
片桐 昭司 県立広島大学, 経営情報学部, 教授 (30274418)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ICT / 所得格差 / 経済発展 / 国際貿易 |
Research Abstract |
平成24年度に予定していた主な実証分析の作業は来年度に行うことにし、来年度行う予定であったマクロ・モデルの構築を本年度に行った。ただし、平成24年度の実証分析のためのICTに関する資料収集の作業はモデル構築と平行して一部行っている。 本年度の主要な研究に関しては、国際貿易におけるICTの進展の影響と国際的な所得の不平等を分析・考察するためのモデル構築を行った。基本的にはNordas, Hildegunn Kyvik,2003,“ICT, access to services and wage inequality,”の国際貿易の2国間モデルをもとに、最終財(貿易財)、混合財(サービス財:貿易不可能財)および中間財(ICTを体化した貿易財)の3つの生産部門を導入し、さらに、中間財の生産過程においてICTの進展のパラメータを組み込んだ。この背景として、ICTはハードおよびソフトの両面から、直接的および間接的に種々の領域の生産性を高める役割を持っていることを考慮したためである。このことはICTが生産過程においては外部経済的な役割を担っていると言える。このモデルでは、熟練労働者と未熟練労働者の2つのタイプの労働者が存在し、熟練労働者のみが高度な能力が要求される中間財生産に従事でき、最終財生産には熟練労働者と未熟練労働者が従事する。よって、本モデルの所得格差は、国内における2つのタイプの労働者間の賃金格差であり、国際的には、ICTの進展の状態に応じて生産性が実現されるた、め両国間の賃金格差で示すことになる。本モデルは一般均衡体系であり、各主体の最大化問題から得られる均衡解を用いて、ICTの進展の度合いを示すパラメータをもとに、国内および国際的な相対的賃金格差や企業数などをシミュレーションさせた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のような達成度の評価の理由として、まず、平成24年度に行う予定であった実証分析のための資料収集が十分に達成されていない点は研究計画の遅れとなっているが、平成25年度に行う予定であったマクロモデルの構築が平成24年度にある程度達成されたためである。 具体的には、実証分析の資料収集に関しては、約30年間にわたる先進国を中心としてICT関連の貿易資料を収集した。そして、国際貿易モデル(マクロ・モデル)構築および理論分析の結果は以下の通りである。(1)上記の研究内容で提示したモデルを構築し均衡解を得た。(2)国際貿易における貿易パーンを3つのケースで示し、そのうちの2つのケースは非線形の均衡体系になり、MATLABのOpimization Toolbox を用いて解の導出を試みたが、その複雑さのため、解を導出することができなかった。このため、この2つのケースに関しては一般均衡体系のみを示した。(3)残る1のケースは、(ITC財を輸出する能力のある)大国と(ICT財を輸出できない国)小国の貿易パターンであり、一般均衡体系における解を導出した。それらの結果を用い、ICTの進展を示すパラメータを変化させることによるシミュレーションを通じて、ICTの進展は、①2国間の相対的な熟練労働者の賃金比を上昇させ、②2国間の相対的な未熟練労働者の賃金比を緩やかに縮小させ、③国内の熟練・未熟練労働者の賃金比(所得格差)を拡大させ、④小国の熟練・未熟練労働者の賃金比(所得格差)を縮小させる、という結果を得た。(4)ICTの進展は国際的および国内的にも所得格差を拡大させる可能性がある。(5)2012年12月1日に熊本学園大学において「国際貿易におけるICTと所得の不平等の分析」と言うタイトルで報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の計画は、ICT関連の資料(投資額、GPDに占める投資額の割合、インターネットやPCの普及率とその水準)などを収集し、それらを総合的分析しかつ有機的に結びつけることによって、ICの進展とは根本的に何を意味しているのか、そしてICTの顕著な進展がみられる時期を明らかにする予定である。 実証研究と並行して、昨年度構築したモデルは静学的であったため、ICTの進展によって経済格差(所得の不平等)が時間とともにどのように変化していくのかが分析できなかった。そのため、本年度は、動学的マクロモデルを構築する予定である。基本的にはAlonso-Carrera,Jaime等,2010,“Growth,sectoral composition, and the evolution of income levels”をもとにモデル構築を行う予定である。具体的には、ICT部門をモデルに組み込み、ICT部門における効率性の上昇(低下)が、時間の経過と共に、どのように経済成長率や経済規模(GDP)に影響を及ぼすのかを分析する。基本モデル自体が非常に複雑なため、さらなる部門の追加は分析上良い結果が得られない可能性があるため、ICT生産のための企業の資源配分の意思決定メカニズムはシンプルに設定する予定である。モデルは一般均衡モデルで、均斉成長経路(Balanced Growth Path,BGP)上の分析で定常状態への移行動学も行う予定で、一般均衡体系を定常状態近傍で線形化して、各経済変数の動きを分析する。その際、MATLABでプログラミングすることによってシミュレーションを行う予定である。このマクロ・モデルの構築とともに、ミクロ・モデル構築の研究にも着手する予定である。ミクロ・モデルはBloom(2009)のモデルをもとに、ICTの役割とICTの進展による所得格差を明らかにする予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用に関しては、外国(主に東南アジアや新興市場-BRICs)におけるICT関連およびそれに伴う経済事情の現地調査費用として使用する予定である。具体的には、ICTおよびITに関連する産業の集積度などの現地調査や経済指標の収集のための費用である。
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