2013 Fiscal Year Research-status Report
経済発展におけるICTの進展が経済格差を生み出すプロセスの経済分析とその解明研究
Project/Area Number |
24530308
|
Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
片桐 昭司 県立広島大学, 経営情報学部, 教授 (30274418)
|
Keywords | ICT / 所得格差 / 経済発展 / 国際貿易 / 全要素生産性(TFP) / 集約度 |
Research Abstract |
平成25年度の計画は「ICTに関する動学的マクロ・モデルの構築」と「ICTに関する実証分析」である。その実績として、「ICTに関する動学的マクロ・モデルの構築とシミュレーション」という理論研究を行った。しかしながら「ICTに関する実証分析」は最終年度に引き続き行うことにした。 実績である理論研究は、内生的経済成長モデルであるRebelo(1991)“Long-Run Policy Analysis and Long-Run Growth”およびAlonso-Carrera and Raurich(2010)“Growth, sectoral composition, and the evolution of income levels”をもとに、ICT財(資本・製品)部門を導入して、ICT資本(製品)が経済成長に及ぼす効果を分析した。Rebelo(1991)で扱われたように人的資本と物的資本の2部門モデルであれば、資本の属性や性質が明快にされるために、本研究では、人的資本の代わりにICT資本を導入し、非ICT資本とICT資本とを明確に区別してモデルに導入した。導入の仕方はICT財部門の生産関数をコブ=ダグラス型とし、投入要素は非ICT資本、ICT資本および労働として、より現実的なモデルにした。ICT財部門で生産されたものはICT製品で、そのICT製品は最終財部門とICT財部門の投入要素として使用され、残りは資本として蓄積されることになる。本研究の特徴はAlonso-Carrera and Raurich(2010)に倣ってモデル展開を行い、一般均衡体系を構築することによって、従来とは異なる分析をおこなうことができた点であり、さらに一般均衡解に対してはシミュレーションによって解を導出したことも特徴としてあげることができる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記達成度の評価の理由としては、平成25年度に行う予定であった動学的マクロ・モデルの構築がある程度できことは評価できるが、平成24年度からの課題であったICT関連の資料などの収集による実証分析を行うことができなかったため、「おおむね」という評価をした。 具体的には、動学的マクロ・モデルの構築に関し、一般均衡体系およびMATLABによるシミュレーションによって、以下の結果を得た。ただし、(2)~(7)は定常状態における結果である。(1)全要素生産性(TFP)はICT財(資本・製品)生産に関する効率性に依存せず、ICT資本の集約度に関するパラメータがそれぞれ上昇(低下)すれば、総要素生産性は低下(上昇)する。(2)消費、非ICT資本および最終財は同じ率で成長する。(3)消費、非ICT資本および最終財の成長率と非ICT資本財が最終財に振り向けられる割合(s)とはマイナスの関係で、それらの成長率(最終的には経済成長率)はその割合(s)の増加(減少)と共に減少(増加)する。(4)相対的シャドウプライスの値と最終財生産へ振り向けられる非ICT資本の割合(s)の値が一意に存在する。(5)ICT資本生産に関する効率性が上昇すれば、経済成長率は低下するが、非ICT資本およびICT資本の蓄積が進めば、ある条件のもと、経済成長率は上昇する。(6)ICT産業における非ICT資本の集約度が増加(低下)すれば、最終財、非ICT資本および消費の成長率は低下(上昇)する。(7)ICT産業におけるICT資本(製品)の集約度が増加(減少)すると、ある条件のもと、経済成長率は上昇(低下)し、また別の条件のもと、経済成長率は低下(上昇)する。(8)2013年12月7日に大分大学において「経済成長におけるICT産業の経済分析」と言うタイトルで報告した。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度の計画は、2つの研究から構成される。一つは理論研究、もう一つ実証研究である。まず理論研究として、「ICTを包含するミクロ・モデルの構築による経済分析」で、ICTが経済格差に及ぼすプロセスをミクロ・レベル(産業・企業レベル)で分析する。実証研究としては、前年度と同じ作業となり、ICTの進展が所得格差や経済成長にどのような役を果たしているのかを明らかにする。 ミクロ経済学に基づく理論研究では、Bloom等 (2009)“The Distinct Effects of Information Technology and Communication Technology on Firm Organization”の論文に依拠してモデル構築を行う予定である。Bloom等(2009)の研究では、ICTが企業組織に与えるインパクトを焦点に当てって分析しているため、所得の不平等に関しては明示的に分析がなされていない。そのため、Bloom等(2009)のモデルのなかに賃金の不平等に焦点を当てるために、ICT(情報技術とコミュニケーション技術)に賃金を関連付け、モデルを展開する予定である。また、前年度やり残した動学的マクロ・モデルによるICTと経済格差の分析を行う予定である。 実証研究しては、これまで収集したデータや本年度収集する資料をもとに、データ分析やSTATAによる計量分析を行い、ICTの進展とは根本的に何を意味しているのか、そしてICTの顕著な進展がみられる時期を明らかにする予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画していた国際会議での報告を取りやめたためと、諸般の事情により招聘を予定していた研究者の来日を中止したためである。 本年度は、10月、Dubaiで開催される国際会議に出席する予定であり、またICTに関する調査(9月にラオスなど)を行う予定で、それらの出張費用として使用する予定である。
|