2012 Fiscal Year Research-status Report
低成長期の日本における賃金率の産業間格差と構造変化
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24530309
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Fukuyama City University |
Principal Investigator |
原田 裕治 福山市立大学, 都市経営学部, 准教授 (70313971)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 産業構造の変化 / 労働分配率 / 産業間格差 / 制度変化 |
Research Abstract |
1990年代以降の日本経済は,経済成長の停滞,サービス化(脱工業化)に代表される産業構造の変化,生産性や賃金率にかんする産業間(企業間)格差の拡大といった様々な変化に直面している。一方,マクロレベルの労働分配率は,中期的には変動しつつも長期的にみると,他国に比して安定していることが確認できる。こうした産業レベルの動態の多様性や変化と集計レベルの動態の安定性との両立が,どのようなメカニズムによって実現するかを明らかにすべく,産業レベルの統計データにもとづき,多変量解析および計量分析の手法を用いて分析した。 具体的には,マクロ労働分配率の変動をdecomposition analysisの手法を用いて,産業レベルの分配率変化と産業構造の変化,2つの要素に分解した上で,生産および所得分配にかんする特徴に応じて産業をグループ化した。こうした分析から明らかになるのは,1990年代以降(とりわけ90年代後半以降)に成長力をもった産業が減少していること,そうした中で雇用あるいは所得分配の動態は年代を下るにつれて多様になり,析出されるグループが細分化されることなどである。 こうした研究成果は,平成24年10月にポーランドで開催されたヨーロッパ進化政治経済学会(EAEPE)において報告した。さらにそこで得られたコメントをもとに,各種産業動態の変化について理論的仮説を設定し,それを計量分析によって検証する作業を進めた。 また1990年代以降の変化は,産業レベルおよび国民経済レベルで機能する各種制度の変化,例えば各産業における規制改革や,春闘システムの変容,非正規雇用にかんするルールの変更などにも影響を受けていると考えられる。こうした制度変化を数量化して,産業動態の変化をより詳細に検証する作業もおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
数量分析については当初の計画を概ね達成しているが,先述した学会報告での指摘を受けて,より詳細な計量分析を行う中で,問題に直面している。それは,収集したデータの範囲では,設定した理論仮説をうまく実証できていないというものである。今後,収集データの拡張や検証方法の工夫を通じて,妥当な結果を引き出すつもりである。 また制度分析については,数量化が難しい部分があり,計量分析による実証にいくらかの問題を抱えている。とりわけ細分化された産業をベースにして分析を行っているため,各産業にかんする詳細な情報を得るのが難しいという問題がある。今後は,記述的分析を強化すると同時に,産業分類を柔軟に見直すなどの工夫を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
日本における労働分配率の動態にかんする時系列的分析を引き続き進めて,できるだけ早い時期に,国際学術雑誌に投稿する予定である。投稿予定の原稿については,数量分析に特化して,制度変化の影響についての分析は最小限にとどめて執筆する予定である。制度変化の効果を含めた分析は,原稿を改めて平成25年中の完成を目指す。 また平成25年度は当初の予定通り,日本経済の動態の特徴をいっそう明確にすべく,国際比較分析に着手する。前年度に用いた分析手法を欧米先進諸国のいくつかに適用し,労働分配率の動態にかんする特徴について比較する。また,対象国を拡大する一方で,制度的データも加味して,各国の分配率動態と制度構造にもとづく類型化も試みる。こうした分析は,近年展開されている「資本主義の多様性」の諸議論に貢献するものとなるだろう。 これらの研究の成果は,平成25年11月に開催されるヨーロッパ進化政治経済学(EAEPE)において報告予定である。またその後に原稿をとりまとめ,平成25年度中に学術雑誌に投稿予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の残額は10万円ほど生じた。これは当初,国際学術雑誌への投稿を同年度内に行うつもりで作業を進めていたが,論文の完成が遅れてしまったために生じたものである。当該残額は,論文が完成次第,英文校正の費用に充てる予定である。 また平成25年度に請求する研究費は,申請時の計画にしたがって,主に国際学会報告のための旅費,文献や統計データの収集,英文校正費用に充てる予定である。
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Research Products
(5 results)