2013 Fiscal Year Research-status Report
低成長期の日本における賃金率の産業間格差と構造変化
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24530309
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Research Institution | Fukuyama City University |
Principal Investigator |
原田 裕治 福山市立大学, 都市経営学部, 准教授 (70313971)
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Keywords | 労働分配率 / 産業間格差 / 制度 / 国際比較 |
Research Abstract |
前年度に行った分析に引き続いて,日本におけるマクロレベルの労働分配率の変動を規定する要因について分析を行なった。具体的には,産業レベルのデータを用いたパネルデータ分析を行ない,以下のような結果を得た。第1に,1980年代までは,産業ごとの分配動態がかなり類似しているのに対して,1990年代以降には産業ごとの独自性が強まっていることを確認した。さらに要因別に見ると,90年代以降は輸出の動向が分配に与える影響が強まり,2000年代以降は労働市場の状態(失業)が分配に影響を与える度合いが強まっていることがわかった。第2に,前年度の分析で析出した産業グループごとの分析を行なったところ,いくつかのグループでは動態の一様性が確認できると同時に,グループごとに分配を規定する主要因が異なることが明らかになった。具体的には,賃金の調整が主導するグループと雇用の調整が分配を主導するグループが確認できる。 他方で当初計画にもとづいて,労働分配率の規定要因にかんする国際比較分析を行なった。また労働生産性変化率と賃金変化率の関係を比較すると,両者の産業間格差が連動する国と,賃金変化率は産業間で格差がなく生産性変化率の産業間格差が価格変化率の産業間格差に反映される国があることが確認された。所得分配の調整にかんする各国間の多様性は,各国経済を支える制度やその変化に依拠していると考えられる。こうした認識にもとづいて,製品市場における規制の度合いや,労働組合組織率や正規・非正規労働に対する雇用保障といった各種領域の制度が所得分配にどのような影響を与えるのかについて,パネルデータ分析を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日本の分配率変動にかんする計量分析については,方向性は出ているものの分析の精度について若干の問題を抱えており,年度内の論文完成は達成できていない。収集データの拡張や検証方法の工夫を通じて,妥当な結果を引き出し,早急に取りまとめるつもりである。 国際比較分析については,制度変数を利用して分析を行なっており一定の結果を出したが,いくらかの問題が残っている。その1つは,産業レベルの制度データの欠如である。国際的に統一されたデータを提供するデータベースは限られており,細分化された産業を対象にしたデータを取りそろえるのは困難を伴う。そのため,制度が所得分配に与える影響の分析について十分な結果は得られていない。産業の集計度をあげて分析するなどの対策を行なって,分析の精度を上げたい。
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Strategy for Future Research Activity |
日本における労働分配率の動態にかんする時系列的分析を引き続き進めて,適切な学術雑誌に投稿する予定である。 国際比較分析については,とりわけ金融領域と国際領域にかんする制度データの収集を進めつつ,産業分類(集計度)の見直しを行ないながら分析を進め,今年度前半に一定の目処をつけて論文をとりまとめて学術雑誌に投稿予定である。 これまでの実証分析から生産と所得分配の産業別動態にかんする知見がいくつか得られている。それらを利用して,今年度の後半には理論研究にも取り組む予定である。生産にかかわる動態に産業間の差異が存在する中で,経済全体として所得分配がどのように調整されるかは,それにかかわる制度の作用によって左右される。そうした多様なダイナミクスを表現するモデルの構築を試みる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
第1に,昨年度11月に国際学会(EAEPE)にて研究報告を行なうことが確定していたが,やむを得ない事情で開催地(フランス)への渡航がかなわず,旅費の執行ができなかった。そのため,年度途中で予算の組み替えを行い,書籍等を購入したが,書籍の出版時期がずれたことなどが影響していくつかの物品の納品が遅れ,年度内に支払いが完了しなかった。 第2に学術雑誌への投稿を同年度内に行うつもりで作業を進めていたが,論文の完成が遅れてしまったために,英文校正費への支出が繰り延べられてしまった。 上記理由の1つ目については,すでに支払いが完了している物品がかなりある。2つ目の問題については,論文が完成次第,英文校正の支出に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)