2012 Fiscal Year Research-status Report
公契約規制と最低賃金制度および労働市場への影響に関する国際比較研究
Project/Area Number |
24530330
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
岸 道雄 立命館大学, 政策科学部, 教授 (20330011)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換、イギリス |
Research Abstract |
平成24年度は、当初の研究計画通り、主としてイギリスにおける公契約および最低賃金に関する調査、分析を行った。この調査分析の結果、判明したことは次の通りである。まず、イギリスには最低賃金法に基づく最低賃金制度が存在する。1998年にイギリス史上初めて全国最低賃金法が制定され、低賃金委員会が最低賃金を政府に勧告することになった。1998年以降、毎年イギリスの最低賃金は改定されており、その水準については、低賃金委員会が景気情勢、物価等の経済の諸変数の動きを分析した上で、慎重に設定している。イギリスの最低賃金に関するこれまでの複数の研究によると、最低賃金の導入と引き上げによる雇用への負の影響はほとんどなかったとされている。一方、首都ロンドンにおいては、この全国最低賃金とは異なる別の取り組みが行われている。これは、ロンドン・リビング・ウェイジと呼ばれるもので、2005年以降、大ロンドン庁から公表されている。大ロンドン庁が民間企業へ業務を委託する際に、ロンドン・リビング・ウェイジを適用するよう契約要項の一つとして盛り込んでいる。また公契約のみにとどまらず、ロンドン市長、民間の非営利団体がロンドン・リビング・ウェイジを採用するよう民間企業へ幅広くキャンペーンを行っており、ロンドンという地域を対象とした「生活可能な賃金」という観点からの最低賃金設定を求める取組と言える。ロンドン・リビング・ウェイジの雇用への影響に関する計量経済学に基づく実証研究は未だ行われていないが、これまでの研究によれば、離職率の低下や従業員のモラル向上といったメリットが報告されている一方で、雇用者数を減らした企業もあることなどからデメリットも指摘されている。ロンドン・リビング・ウェイジのコンセプトと取組は、日本の貧困対策へ一つの示唆となりうると考えられるが、さらに分析と考察を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度における研究計画において、イギリスの最低賃金制度、公契約における労働規制を中心に調査研究を行うこととしていたが、おおむね計画通り実施することができたため。所属大学の学外研究制度に基づき、ロンドンに6カ月間滞在し、ロンドン・リビング・ウェイジについてロンドン交通局(Transport for London)でインタビュー調査を実施するなどの貴重な研究成果を上げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、平成25年度は当初研究計画から変更し、先にアメリカ合衆国における公契約法(デービス・ベーコン法)、地方政府の公契約に関わる生活賃金条例および最低賃金制度の実態とその雇用への影響について、文献と現地インタビュー調査に基づき研究を行い、平成26年度にデンマーク、ドイツについて調査研究を実施することとする。これは、欧州各国における生活賃金への取り組み、公契約における労働条項の導入について、アメリカの取り組みの影響を少なからず受けており、アメリカ合衆国について先に調査研究を行うことで、平成26年度におけるデンマーク、ドイツの調査研究のベースとなる知識と、より厳密な分析視角を得ることができると考えられるためである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、所属大学における学外研究制度を利用できたことにより、イギリス・ロンドンに6カ月間滞在し、研究を行った。このため、当初の研究計画で予定していたイギリスでの調査のための出張旅費(往復航空券代および宿泊費)が不要となったため、次年度に使用する研究費が生じた。この研究費と翌年度に請求する研究費とを合わせて、アメリカでの現地インタビュー調査を行うための出張旅費および文献資料購入費にあてる予定である。
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Research Products
(1 results)